第24話 オヤジのコーヒー
コーヒーが残り少なくなってきたので、今日は仕事を早めに切り上げ、オヤジのコーヒー店に行く。
オヤジの店は、コーヒーの卸売りの店だが、倉庫の一角で小売もしてくれる。
店(というか倉庫)は以前住んでいたマンションのすぐ裏手にあたる場所にある。
この店のコーヒーは、回転がよいため、豆がいつも新鮮だ。
棚のコーヒーを眺めていると、
頼みもしないのに、店の奥からオヤジ(社長・ヒゲ)がコーヒーを手に近づいてくる。
「おぅ、随分久しぶりだねー。」とオヤジ。
このオヤジ、実は「オテル・ド・ミクニ」の三国シェフに頼まれて、
ミクニのフレンチの食後のコーヒーをブレンド・開発した人物で、
「オテル・ド・ミクニ」をはじめ、都内の有名レストラン各所にコーヒーを卸している。
今日は特段急ぎの用事がないので、コーヒーを1杯もらうことにする。
「棚にあるやつならどれでもいいよ」というので、珍しめのものを手で入れてもらう。
ハンドドリップは通常400円なのだそうだが、勝手に250円にしてくれた。
店の外(というかそこは道路だろっ!!)に置かれたベンチで飲む。
なめらかな口当たり。うまい。
エスプレッソを手にしたオヤジも加わり、コーヒー談義。
ちなみにエスプレッソは「量が少ないから」というとんでもない理由から100円なのだが、豆を買った人には、さらに50円引きで、1杯50円というこれまたとんでもない値段になる。
「こんなんでいいのかオヤジ・・・」といつも思うが、口に含むとこれがまたきっちりと旨い。
さすがだぜオヤジ。
京都のイノダコーヒーの話が出る。
本店に行ったというと「例のアレ、飲んだ?」「飲みましたよ」というようなアレソレ会話。
(例のアレとは「アラビアの真珠」と名付けられたイノダコーヒーの看板商品のことである。)
1杯のコーヒーから、今の日本のコーヒー業界の話を語りだすオヤジ。
適当に相槌をうちながら小一時間ほど話す。
ここのコーヒーは最高においしいのだが、オヤジのウンチクを聞かないと買えないところが玉にキズだ。
「どんなにいい豆でも、お客さんが飲む時に最高の状態じゃないと意味がないと思うんだよね。」
潮時だ。
このタイミングを逃すとあと30分聞かねばならない。
すかさず「今日のオススメは?」と切り出す。
「いつも買ってもらってるのと、全然違うんだけど、こういうのも面白いよ」
と奥から豆を出してくる。
「ケニア産で酸味が強いんだけど、ミルクと砂糖を入れると酸味がうまみに変わるから。」
オヤジのオススメは外れたことがない。オススメの豆と、いつものフレンチブレンドを買う。
200g×2種類買って1000円程。
卸売り価格なので激安。
帰って、さっそくケニア産のほうを淹れてみる。
まず何も入れずにブラックで飲んでみる。苦い。いつものものよりずっと苦く、酸味も強い。
オヤジに言われたとおり、ミルクと砂糖を大目に入れて飲んでみる。
と、味が激変した。
まろやかな口当たりと、なんとも言えないコク。
鼻に抜けるフルーティーな香り。
コーヒーというより、ミルクティーに近い感じとも思える。
こんなのは初めてだ。文句なしにうまい。
さすがだぜオヤジ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます