第22話 誇りとは何だろう

昨日、タバコ部屋に入り、タバコに火をつけようとすると、そこにいたある人と目が合った。


一瞬の戸惑いのあと、同じ言葉が同時に口から出ていた。



「よう。久しぶり!」

「お久しぶりです!」



その人はMシマさんといい、10年ほど前に同じ経営企画部というところで、毎晩夜中まで働いていた仲である。


眠くてぼーっとしながらコピーをとっていたりすると、突然後ろからバシン!とお尻を叩いて、ニヤっと笑って去ってゆく。そんな人だった。




MシマさんがNY支社の副社長として赴任した後は、NYに来ないか?とのお誘いがあった。


NY市場への上場プロジェクトに参加することになってしまったため、結局僕はNYには行かず、日本に残った。




その後Mシマさんは、法人営業方面の仕事をすることになった。法人営業と、いま僕がいる部門とは関係が薄いので、同じ社内にいても、逢うのは5年ぶりぐらいである。




Mシマさんは「ブラックベリー」という欧米ではとても普及しているスマートフォン(フルキーボードのついた高性能携帯端末)を扱っている。先日日記で紹介した「ボーンアルティメイタム」にも「奴のブラックベリーの通信記録を全部洗え!」といったセリフが出てくる。


スマートフォンはエンタメ機能とかより「エクセルファイルが見れる」とか「スケジューラーが同期する」とか「もし落とした時には、遠隔操作で、データを全部消せる」とかのいわゆるビジネスユースが主体のため、その会社のメールシステムとか、スケジュールシステムとか決裁システムとかと連動したシステムとの「セット販売」が主体である。


Mシマさん曰く、「定食屋」 である。 「ブラックベリー」という「とんかつ」だけ出されても顧客は困るわけで、システムとセットにした「定食」として販売しなければ意味がない という訳なのだ。



(Mシマさんはこの「ブラックベリー」がやりたいがため、NY支社の副社長(本社部長待遇)という肩書きを捨て、降格してまで今の仕事をしている。)





「じゃぁ、定食屋の店長ってことですね」と僕が言うと



「まぁ、そういうことだな」と笑っていた。





「もうウチの会社も図体がデカくなって、昔みたいな雰囲気じゃないだろ?だから、定食屋ぐらいの小回りの効く組織のほうが面白いんだよ。」



そんな話をしてMシマさんは忙しそうに去っていった。その顔は生き生きとしていて、まだ会社が小さかった昔のままで、誇りに溢れていた。



とても忙しい仕事の合間に 「少し休憩!」 と思って入ったタバコ部屋で、思わぬ元気をもらってしまった。





誇り とは 決してゴミ箱に捨てていいようなものではないと思う。


願わくば、全ての人が、それぞれの誇りを胸に、人生を歩んでゆけますように…。

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