第18話 魔法などなくとも

僕はスポーツは嫌いである。


まず、群れるのが嫌いで嫌いで、チームプレーの要求される団体スポーツには全く向かない。


おまけに、勝ち負けのつくことに興味がなく、勝ってもさほど嬉しくないし、負けても全然悔しくない。

これは、得点や順位を争うスポーツ競技においては、致命的な欠点である。




唯一向いているのが、「Fun」系のスポーツで、(競技ではない)水泳や、ダイビング、スキー、パラグライダーなどである。


特にダイビングなどは、順位のつく訳でも得点を争う訳でも、団体で行動する訳でもないので、僕にはすごく向いている。


水系のスポーツは好きなのである。




先日ケンゾーと飲んでいて今度どこか潜りに行こうかなんて話になった。


ケンゾーと僕は、実は学生時代のダイビングクラブの同期で、ふたりとも当時は年間180日程潜っていた潜水バカである。

(1年が365日しかないのを考えるとこの頻度はいかに僕らが潜水狂であったか、ひいてはいかに学校に通っていなかったかを如実に示す/爆)


そんな話をした日、気になってダイビングの器材をちょっと調べてみた。


重器材と呼ばれるBCジャケット、レギュレーター類に関しては、

細かな改良は施されているものの、当時僕らが使っていて今は双方の実家の倉庫に眠っているものと基本的な構造は同じで変わっていなかった。


俗に3点と呼ばれるマスク、フィン、スノーケルについても、基本的に変化はない。



が、劇的に進化していると思われる器材がひとつだけあった。



コンピューターである。



ダイビングは、平たく言うと「潜水病」を防ぐため、潜水開始時間、潜水終了時間、最大深度、各深度における滞在時間を厳格に管理する。

この管理が甘いと非常に危険なスポーツである。


僕らが盛んに潜っていた当時は、これらのデータを自動管理するダイブコンピューターが出回り始めた頃で、「アラジン」という名前のついたそのコンピューターは「アラジン様がピーピー鳴ってるからもう上がらなくちゃ」みたいな感じで、ちょっとした「さま」扱いされるまさに「魔法の器材」であった。


(その扱いときたら、昔々、黒電話にレースのカバーがついていたり、テレビにほこり避けの布のようなものが掛けられていたり、初期のケータイに革ケースがついていたりした、まさにアノ扱いそのものであった。)


いまやダイブコンピューターは非常に廉価になり、かなり一般的な器材になっている。機能面の進歩も進んでいる。「さま」扱いされることも、もうない。


(これは、パラグライダーで使う高度や気圧を知るバリオと呼ばれる器材についても同じである)



が、こういった「魔法」の器材は、基本的にそれに何らかのトラブルがあっても生還できるという能力は身に付けているべきだと思う。

器材が壊れても自然はそれを理由に助けてくれたりはしない。



自然を相手にする「Fun」系のスポーツでは、そういう能力は基本的に必須であると思う。

ラケットが折れたからといって、コートを去れば済むようなものとは決定的にこの辺りが違う。

水泳にしても、溺れた人の救助の仕方や心肺蘇生の技術を知っておくことは、やはり必要であると思う。

キャンプなどでは深夜にカーナビが壊れても、星で方向を知れる程度の知識はあって良いと思う。




昔、スキーに行った際、チェーンがちぎれてタイヤのシャフトにからまってしまって動かなくなるというトラブルに見舞われたことがあった。

からまったチェーンがいくら引っ張っても取れないと思った時の僕と友人の判断は早かった。


「タイヤ、外そう」 



あっと云う間にジャッキアップしてタイヤを外し、ぐるぐるにからまったチェーンは綺麗に取れた。


再度タイヤを付け直して走り始めるまで5分程度。その程度のことは雪道を走る以上、出来て当然の気がする。





「魔法」などなくても、知識と知恵で窮地は脱する。


「Fun」系ではこれが普通であると、思うのである。






という訳で今日は 勝ち負けに鈍感ってある意味致命的な欠点だよね・・・ というお話でした。

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