第16話 たけみのこと
深夜のバイトがひけた朝、一緒にシフトに入っていたたけみが言った。
「送ってって」
たけみの部屋は所沢。僕の当時の住まいからは大分遠い。
特に用事がなかったのでOKした。
所沢までの長い電車の中、たわいもない話をして過ごした。
所沢の駅に着くと、たけみはバッグから小さな包みとくまのぬいぐるみを出した。
そういえば、今日はバレンタインだった。
それがたけみとの付き合いのはじまりだった。
着くでもなく、離れるでもなく。
チョコは毎年贈られてきた。
随分長い間、それは続いたように思う。
僕が社会人になって水戸に赴任した後も、毎年欠かさずチョコは送られてきた。
たけみは焼き物の勉強をするといって、当時は九州の唐津で修行していた。
その後東京に戻り、フラワーデザインの仕事に就いた。
そして迎えたあの日。
友人代表として花束を抱えたたけみは、皆に聴こえないよう、小声で言った。
「なんだか、へんな気分だね。」
その日「ざる」のたけみがどうしようもないくらい泥酔してわんわん暴れた との報告を受けたのは、それからだいぶ後のことだった。
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