第2話 すすきが見えたよ
数年前のちょうど今頃のある晩・・・ 。
3ヶ月間苦労して作り上げたシステムの完成を祝って、
僕は当時のアシスタントのあことモっちゃんとで、四谷でささやかに飲んでいた。
少し酔ったあこが僕に言った。
「ねぇ○○ちゃんっ。今日ねっ。今日ねっ。
電車から、すすきが見えたよ!」
僕がフフと笑うと、
「あ”ーーー。笑ったーーー。」
といってあこはむくれてしまった。
仕方ないので、すっとお酒を一口飲んで僕は言った。
「すすきが見えたってことはさ・・・
すすきを見る前 と すすきを見た後 があったって事じゃん。」
むくれていたあこは少し驚いてこっちを見た。
「うん・・・・あった。」
すすきは今日突然そこに出現した訳ではない。前から生えていたのだろう。
見えなかったものが、見えた!というのは、その人に心境の変化があったからである。
すすきを見る心の余裕が出来たのだ。(電車で外の景色が見えるぐらいに。)
おそらくそれまで、何かにガムシャラに取り組んでいたのだろう。
あこはバッグから1枚の大きな封筒を取り出して大事そうに僕に渡した。
中には1枚の認定書が入っていた。
「○○ちゃん、あたしね、今回の仕事してて、自分がシステムの仕事に向いてるんだなってわかったの!これはね、簡単な資格だけど、、、あたしの次への第一歩なの!今日はこれを○○ちゃんに見せたくて持ってきたの」
僕はあこを見て、静かに言った。
「頑張ったね。」
「・・・だから・・・ごめんね。○○ちゃん。
アシスタントは今回の契約以降は更新しないつもりなの。」
僕はまた一口お酒を飲んでフフと笑った。
よく気がつく優秀なアシスタントが離れることより、
あのあこが自分の道を見つけたことのほうが嬉しかった。
四谷の駅でモッちゃんと別れ、夜の道を少し歩いた。
別れ際にあこは言った。
「人はね、○○ちゃん。 ・・・移り変わるの。」
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