カニたべいこう

@henckel002

第1話 カニたべいこう

そろそろカニの季節です。




数年前の12月・・・。



僕はその日、先輩のS野さんとランチをしていた。


S野さんは右手が動かない。


もともとC大のソフトボール部のピッチャーをしていた彼女は、


とても活動的な女性で、バイクが好きで、いつも真っ黒に日焼けしていた 。


ある夏休み、彼女は単身北海道に渡り、バイクでツーリングをしていた 。


そして、事故にあった。大きな事故だった 。


右半身はぐちゃぐちゃになり、首も殆ど取れていたのだが、


北海道でブラックジャックのような名医にあたり、


右半身を復元してもらい、取れてた首もつけてもらった。


最初は車椅子を動かすのもやっとの状態だったが、彼女は強かった。


半年でなんと、無理といわれていた歩行ができるようになり、


仕事にも元気に復帰してきた。


ただ、右の手だけは損傷がひどく、C3POのような状態のままで、


動かすことは出来ない。(脇にモノを挟むことはできる)


自分の障害については何ひとつ愚痴もこぼさず、


彼女はひとり暮らしまでしていた。左手一本で掃除洗濯料理までするのである。


PCも左手一本で器用に操り、部下もいる。





で、その日もぜんぜん普通にいつものようにランチをしていたのだが、


ポツリとS野さんが言った。






  「かにたべたい・・・」






  「!!!!!!!!」







僕は衝撃を受けた。


なんで今まで気付かなかったんだろうと自分を責めた。


カニはS野さんの大好物。しかし左手一本ではカニはむけない。




ランチから戻って、すぐに銀座の店を予約した。


金曜にS野さんを連れて、速攻カニを食べに行った。




僕はカニをむき、S野さんはカニを夢中でほおばった。


何年ぶりかのカニだったのだろう。


むさぼるようにS野さんはカニをたべた。


僕はむいてむいてむきまくった。


「おいひいおいひい ありがとありがと」と言いながら、


S野さんはカニを夢中で食べ続けた。 


S野さんは途中からボロボロと涙をこぼし始め、


むいていた僕もつられて涙してしまった。


彼女が泣くのを初めて見た。





帰りは、日本酒をたくさん飲んで、泥酔してしまった彼女をおぶって部屋まで運んだ。





   かにを食べれるって、幸せなことなのである。

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