第17話 カワイイ先生と僕の人生相談
「そ、それでは! 今日も皆さん、気を付けて帰ってくださいねっ! これから体験入部に向かう人は、精一杯頑張ってください!」
放課後、我がクラスの名物となった
それに比べて僕は、相変わらずそのまま直帰して、自分の家でゲームをしたり動画配信を見て時間を潰している。
そして、今日も例に漏れず学校から去ろうとしたところで……。
僕に向けられた視線を感じた。
入学式以来、クラスメイトから話しかけることはないし、誰かから注目されることなんてなかった。
――まさか、姉さん?
危機センサーが鳴りそうなところで、視線を向けている人物と目が合った。
「……えっと、先生?」
僕に視線を向けていたのは、教卓の前でおろおろとした
その間も、先生は生徒から「
だが、教室を出ていく様子はなく、僕に視線を投げ続ける。
疎い僕でも、先生が何か僕に話しかけようとしているのが分かった。
このまま、知らない振りをして立ち去るには憚られる……。
先生、ちょっと泣きそうな顔してるような気がするし。
なので、僕には珍しく「空気を読む」という行動を実行した。
用もないのに自分の机の中を確認したり、バッグの中を意味もなく漁ったりして時間を潰す。
そして、その努力が功を制して教室は僕と先生だけになった。
先生も、ここが好機だと思ったのか、教卓から僕のところまでゆっくりと近づいてくる。
「……ッ、え、えと……!」
しかし、目の前までやって来た
「……んっ! そのッ!!」
……なんだか、先生の反応が独特すぎる。
これじゃあ、僕が変なことをしているようになってませんかね?
先生をこのままにしておくのは、色んな意味でヤバいと僕の直感が告げているので、とりあえず緊張を解いてもらうことにした。
「えっと、さよなら。……
「にっ、
先生は、廊下まで聞こえるんじゃないかというくらいの声で叫んだ。
顔は真っ赤で、ちょっとだけ息も切れてしまっているようだ。
ちなみに、人を弄るという慣れないことをした僕の顔も熱くなってきた。
「ご、ごめんなさい。わたし……、大声出しちゃって……」
「……いえ、僕も、その、ごめんなさい」
しかし、ワンラリー会話を行ったことにより、狙い通り先生も緊張が解けたみたいだ。
「あの、
「えっ?」
僕が首を傾げると、先生は少しだけ俯きながら、話を続けた。
「ごめんなさい。余計なことかもしれないけれど、
「
はて、なんのことかと疑問に思ったが、入学式、というワードで想起される記憶があった。
三人の女子生徒に囲まれて、姉さんのことを聞かれた記憶。
そのときのことを、先生は言っているのだろう。
そして。あの三人の中に、その
もしかして、あの子たちが何か先生に言ったのだろうか?
あのときは決していい対応ではなかったかもしれない。不快に思わせてしまっても、僕には何も言い訳できない立場だ。
その話を聞いて、先生は僕を問題児だと認識してしまったのだろうか?
しかし、僕が予想していた話とは、少し違っていた。
「そのときのことをね、他の子が見ていたんだけど、なんだか
確かに、そのときは姉さんのことを話したくなくて、困惑していたように思う。
だけど……。
「あの、先生。それだけで、僕を気にかけてくれてたんですか?」
「ご、ごめんね! 決して悪いことじゃないの! でもね、
スポーツは、礼に始まり礼で終わるというが、先生の会話は謝罪で始まり謝罪で終わっていた。
なんだか、とても気を遣わせてしまってるというか、とにかく、先生には誤解を与えているようだったので、急いでその誤解を解くことにする。
「いえ、大丈夫ですよ……。ちょっと姉さ……姉の話をされただけなので……」
「姉って……、
キョトン、とした顔で、先生がそう尋ねてくる。
しまった。
姉さんの話をされたことは別に隠していても問題なかったはずなのに、余計なことを言ってしまった。
今は、あの時のように僕を助けてくれる
必然的に、僕はこれから姉さんのことを、先生に話さなくてはいけなくなった。
また、僕の中で得体の知れない
「そう、だったのね。うん、分かった。それだけ言ってくれたら、先生は十分よ」
「……えっ?」
予想外の先生の反応に、思わず声が漏れる。
てっきり、先生も姉さんのことをあれこれと聞いてくると思っていたのだが、彼女はにっこりと優しく微笑むだけだった。
そして、さらに先生は驚くことを口にする。
「だって
「…………えっと」
僕はどう答えたらいいのか分からずに、あたふたしていると、先生はちょっとだけ顔を近づけてくれた。
姉さんや
「
今度こそ、僕は先生の言っていることが分からず、困惑してしまう。
「……あっ! ご、ごめんなさい! わたし、またやっちゃったかも……」
しかし、先生は、初日に教壇の前で見事に転んだときと同じような、慌てた仕草で一歩後ろに下がった。
「あのね……わたしにも、お兄ちゃんがいて、凄く立派な人だったの。でもね、わたしって、お兄ちゃんとは全然違う性格で、人前に上手くしゃべれないし、引っ込み思案だったし……えっと、だから、天海くんが困ってる理由も、なんとなく分かったというか……」
そして、先生は僕にこう言ってくれた。
「
それは、僕の幼なじみの言葉とよく似ていた。
僕の心の中で、ストンと、重たいものが取り除かれたような気がした。
「
「……自分がなりたい自分、ですか」
「ああっ! で、でも天海くんが、その、引っ込み思案とか! そういうことを言ってるんじゃなくて……あわわ!」
必死で取り繕うとすればするほど、墓穴を掘っているような気がするのだが。
「ふっ、ははっ、はははは!」
「ふえっ!? あ、
「いえ、なんだか先生を見てたら、おかしくって」
はうっ!? と、小動物のような反応を見せる先生に対して、僕は告げる。
「
「……うん。それなら良かったです」
にっこりと微笑んでくれた先生の顔は、彼女にしか出来ない優しい笑みだと思った。
僕は先生に向かって一礼して、教室を後にしようとした。
そして、そのまま教室のドアを開けようとしたところで、「あっ!」と先生が声をあげる。
「
僕は憤慨する先生を置いて、教室を出た。
先生を二度も弄るなんて、僕はちょっとだけ、悪い子になったかもしれない。
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