第18話 甘すぎる僕の孤独な決意

 放課後、僕は下駄箱の近くにあった掲示板に目を通していた。


 そこに貼られているプリントの数々は、主に『新入部員歓迎!』と大きな見出しが書かれた部活動案内だ。


 運動部に文化部、様々な部活が活動のアピールポイントをまとめていた。


 僕はそのプリントを次々と眺めていたのだが、



「う~~~~ん」



 さっきから出てくるのは、唸り声だけだった。


 なぜこんなことをしているのかと言われれば、自分でもよくわからないというのが本音だ。


 ただ、先ほど新田にった先生と話をして、僕も僕なりにちょっと動いてみようかと思っただけだ。


 まぁ、簡単に言えば、単なる気まぐれである。


 ちょうど、アルバイトの求人サイトを眺めるのも飽きてきた頃だしね。


 だが、残念なことに興味を持てる部活動がなかなか見つからない。


 僕は特別運動神経がいいわけではないし、特別手先が器用なわけではない。


 何かに必死になって取り組んだこともないし、誰にも負けない強い情熱をぶつけたこともない。


 平々凡々。それが僕という人間だ。


 どうやら、人はすぐに変わろうとしても無理なのかもしれない。


「帰るか……」


 結局、僕はいつも通りに「何もしない」という選択肢を取ることになりそうだ。


 やっぱり、僕は何も変われないまま、高校生活を過ごすことに――。



『おい、いつまでここにいるつもりなんだよ』



 僕しかいない廊下で、声が響く。


 最初は僕に話しかけてきたのかと思い、周りを見回したけれど、誰の姿もない。


 僕の聞き間違いだろうか?



『ったく、昔からウジウジウジウジしやがって。だから駄目なんだろうが』



 やっぱり、僕の幻聴なんかじゃない。


 怒気を孕んだ、凄みのある声。


 廊下の先、階段があるほうから聞こえてきた。


 そして、誰かがいる気配がある。



 でも、それが僕と何の関係がある?



 ここで僕が取るべき行動は、おそらく階段がある反対側、校門へと続く正面口から帰宅することだ。


 そうすれば、僕は声の正体に関わることなく、学校を後にすることができる。


 きっと、それが正しい選択なのだ。


 だが、あの声は、誰かを責めているような声だった。



 ――りく、少しは紗愛さらを見習いなさい。

 ――本当に、お前は情けない。だから……。



 気が付いたら、僕は一歩前へと踏み出していた。


 声が聞こえる、階段がある場所へと。


 僕には関係のないことかもしれない。


 だけど、このまま知らない振りをして帰るのだけは、どうしても嫌だった。


「あっ……あの!」


 角を曲がった瞬間、僕は声を上げる。


 果たして、そこにいたのは……。



「!?!?」



 小柄な、女子生徒一人だった。



 僕が急に声をかけてきたことに慌てたのか、唖然とした表情でこっちを見ている。


 階段に座っているその女子生徒の特長は、長く伸びた黒髪で、前髪も目が隠れないギリギリのところまで伸ばしている。


 そして、眼鏡の奥にある瞳はオロオロと泳いでしまっている。


 だが、おそらく僕も似たような反応をしていると思う。


 てっきり、僕は先ほどの声を聞いて、誰かが会話をしているのだと思っていたのだ。


 でも、ここには彼女一人しかいない。


 そして、彼女の外見的特徴を表現するためには、あまりにも目立った箇所が一か所だけあった。



『ああん!? 何見てやがんだゴルァ! 気安く話しかけてんじゃねーぞ!!』



 彼女の右手にあった犬の人形が、突然喋り始めたのだった。


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