第15話 甘すぎる僕のお姉ちゃんとの一日

「お風呂、気持ちよかったねぇ~、りくくん」


「…………ソウデスネ」


 パジャマ姿になった姉さんは、僕と一緒にリビングのソファに座ってカップアイスを食べていた。


 おそらく、僕は死んだ魚の目以上に、虚ろな目をして、ただ黙々とアイスを口に放り込んでいるのだろう。その証拠に、さっきからバニラの味が全然しない。


 一方、姉さんは上機嫌に頬を紅潮させている。


 それがお風呂上りだからなのか、僕の身体を洗ったことの喜びなのかは判断がつかなかったけれど。



 今でも目にくっきりと残ってしまった、姉さんの綺麗な身体。

 そして、何度も撫でまわされた感触。



 いや、忘れろ! 忘れるんだ僕!


「ねえ、りくくん。どうしたの? さっきから、ずっとぼぉーとしてるよ? もしかして、のぼせちゃった?」


「ち、違うよ! だ、大丈夫だから!」


 心配そうな目で僕の顔を覗き込む姉さん。



 栗色くりいろの髪から、シャンプーの残り香がする。



 姉さんの匂い。甘くて優しい、落ち着く花のような香りだ。



 それなのに、今の僕は、こんなにもドキドキしてしまうのは、一体なぜだろうか?



「ちょっと、疲れただけだよ……」


「そっか。学校の初日だもんね。じゃあ、今日はゆっくり寝ようね。よしよし」


 そういって、姉さんは僕の頭を優しく撫でる。


 お風呂のときとは違う、触られて、どこか安心する気持ち。



 あのときも、そうだった。


 僕が姉さんと出会った、初めての日も。


 姉さんはこうやって、優しく僕の頭を撫でてくれたのだ。



りくくん、歯磨きは忘れちゃ駄目だよ」


 そういって、姉さんは立ち上がって、僕から離れていく。


 そのことに、少しだけ寂しいと思ってしまうのは、僕のわがままだ。


「それじゃあ、お姉ちゃんは先に陸くんのベッドにいるからね」


「なんで!?」


「だって~! お姉ちゃん、陸くんと一緒に寝たいんだもん!」


 全然理由になってない。


 一体、僕はどれだけ姉さんに振り回されてしまうのだろう。


☆ ☆ ☆


 こうして、僕の前途多難な高校生活は始まったのだった。


 というか、高校生活すら殆ど始まっていない気がするけど、そこは気にしないでくれるとありがたい。

  

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