第6話


「おー、珠希! 久しぶり、まだ独身なんだって? 俺はほら……これ見てくれよ。この前、三人目が生まれてさ……可愛くて仕方なくてさぁ――」


 人生で初めての恋人だったヒロシは、嬉しそうに家族写真を珠希に見せた。


 いざ話してみると、メッセージの送信について聞きづらいことが分かった。

 連絡先の交換を申し出てもらえるまでは、メッセージアプリの友達追加についても言葉にするのは難しい。

 もう恋人同士でもないし、やり直すつもりもない。

 そんな中で連絡先を気軽に、交換しようというのが無理な話だった。


 誰もが普通で、誰もが疑わしく見える。

 メッセージの送り主を見つけることは容易ではなさそうだった。

 珠希は、できるだけ多くの人と話をして送り主を見つけたい欲求に駆られる。


 ヒロシと連絡先を交換していそいそと席を立った珠希に、ヒロシたちと反対側に座っていた集団の一人が声をかけた。


「――あ、たまちゃん、お誕生日おめでとう!」

 軽い口調で呼び止めたのは、半年ほど前に別れたユウダイだった。

 こちらに向かって手を振って、尻尾を振る犬のように近づいてくる。


 交際するまでは楽しい人だと思ったし、実際に良い人だった。

 しかし、深く付き合えば付き合うほど価値観の違いや考え方の違いに唖然とさせられてしまって、うまく行かなくなってしまった。


 お箸の持ち方がおかしいことは、我慢ができた。

 でも、食事中に珠希の食べているものに文句を言うところだったり、上から目線の物言いには我慢ができなかった。

 付き合いだして間もなく、珠希のストレスメーターが振り切って別れを切り出した。

 彼は何が悪かったのかも分かっていないようで、珠希をさらに苛立たせた。


 日常的な自分の暮らしの中でも顔を合わせたくない部類の人だったのだが、今日はそうも言ってられない。


 聞きたいことだけを聞いて早めに切り上げるつもりで、珠希は覚悟を決めた。

 ゆっくり深呼吸をして笑顔を作り、静かに振り返った。


「わ、わー! ありがとう、ユウダイ。今日も素敵な服だね」


「たまちゃん流石っ! よく気がついたね。このブランドね、最近アメリカのノースカロライナ州で流行ってるブランドでさぁ、日本じゃなかなか手に入らないんだけどね。僕の知り合いが――」


 彼の話は、相槌だけでたっぷり十五分は続いた。

 内容は、いつもの見下し口調での自慢話だ。


「まだ挨拶しなくちゃいけないから、ごめんね」

 そう言い残して、話足りなさそうなユウダイに背を向ける。


 作り笑いのしすぎで疲弊した表情筋を和らげるようにマッサージをしながら、珠希は別の席へ向かった。

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