in the sky
午前十時零分――タチカワ基地よりシュナイゼル少将の指揮する部隊が進軍を開始。
先駆けること午前九時五五分――全基地より四一センチ要塞砲による砲撃を開始。また、房総半島を隔てた太平洋沖から、前時代の大艦巨砲主義の象徴とも言える戦艦が艦砲射撃を開始。応じて〈シンジュク・コフィン〉から
「着弾を確認。効果は微小なり」管制官の報告/若干の落胆を滲ませながら。
「予測できていたことだ。相手は六百メートルを超すデカブツだからな、山を切り崩すに等しい作業だ。それよりも〈
《
「逸るな。作戦は予定通りに決行する」
《決して急かしているわけでは――》言いよどみ《
「御しかねていることは確かだろうな。上層部が疎んじているわけではなさそうだが、何にせよ、後方支援に徹するようなタマではなかろう」
シュナイゼルは右隣りを見た。指揮官席の右後方を見た。
特殊作戦群の情報がすべて開示されているわけではない。シュナイゼルが知る人物はフラット=グリムリーパーとシャーレイ=プリンセス、エレナ・ハイル・シュタットフェルト、そして、かつて士官学校で肩を並べた男の四名だった。現在はレイジ・スガヤと名乗るあの男がいる限り、奇襲と呼ぶのも生ぬるい、道化めいた方法でもって戦場に参画し得るだろうと予測できた。
ヨコハマ基地内ブリーフィングルーム。
「諸君――よい報せと悪い報せ、どちらから聞きたい」
「アリョーシャはよいことから聞きたいなぁ、縁起がいいもの」
「それではよい報せから」スガヤは手元の端末に指を滑らせ、背後の電子黒板へとヨコハマ基地における部隊編成の一覧を映し出した。即座にアンジェロから指摘が入る。
「俺達の名前がない」
「ヨコハマ基地司令、シンドウ少将閣下のご厚意による采配だ。タネを明かせば、大規模な兵員の入れ替えがあるならともかく、たかだか十余名の増員で編成を見直すくらいなら独自に動いてもらおうという判断らしい」
「……連邦軍が規律を乱すような采配を許すとは思えない」
「みなまで言うな、コハル嬢。それが我々の大将によるものか、はたまた外部の思惑が絡んだのかは分からぬが、何かしらの取引があったことは確かだ」特殊作戦群随一の老兵であるサレマナウは豊かな顎髭をつまみながら、スガヤに話の先を促した。「我々の戦場はどこになる」
「翁の指摘する通り、我々の戦場はヨコハマではない。我々はタチカワ基地本隊と合流、敵戦力を誘引しつつ〈シンジュク・コフィン〉を目指す」
「で、あるか。ならば機動性が肝となるな」
「そこで、悪い報せとなる」
ブリーフィングルームの扉が開かれる。エレナと共に入ってきたのは、軍服の上から白衣を纏うといった間の抜けた格好の、肌の浅黒い男だった。研究者が一種のシンボルとして好む丸縁眼鏡を手の甲で押し上げ、過労によって鋭さを増した眼で一同を見渡した。
「特殊作戦群第一特殊戦隊開発室長のイソロク・シマ准尉です。この度は僕の試作兵器を使って頂けるとのことで、物好きだなぁとは思いましたが、シュタットフェルト博士のご助力により安全性試験には漕ぎ着けましたので、それなりにお役には立てるかと」
掠れるような声の低さで、抑揚もなく一息に捲し上げ、満足したのかシマは部屋の隅に腰かけた。それもまた覇気のない様子で目の焦点をずらしながら、スガヤへと黙礼する。
「作戦内容の説明は僕から行う。兵器に関する質問があればシマ准尉へと。作戦に関する陳情は第一・第二特殊戦隊の両隊長へ。第三特殊戦隊を預かる身として、僕は反対したと釘を刺しておこう」
電子黒板にイソロク・シマ謹製の兵器が映される。その形状から全てを悟った第三特殊戦隊の面々の反応は、嘆声をこぼすか悪態を吐くか、苦笑するか、あるいは無感情を保つかと様々だったが、目を輝かせる者はいなかった。ただ一人、開発者のシマを除いて。
「あぁ、こいつ……そうか」それまで沈黙を保っていたマルコが同族の臭いを嗅ぎ取り、開口する。陸戦機嫌いを標榜するマルコの興味が海にあるとすれば、シマの興味は空にあった。
「いかがですか、みなさん。人類はかつての大宇宙時代へと一歩ずつ帰りつつあります」
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