第6話【反対側にスマホを向ける男】

 二郎は十一郎にスマホを向け撮り続けている。

「オレじゃねーだろ二十三郎だろ!」十一郎が怒声を上げながら二郎に詰め寄ってきた。

「いいや、二十三郎の方はもうオメーが撮ってるし他のヤツも撮ってる」二郎が答える。

「カッコつけてんじゃねえぞ!」

「ちげーな、生憎俺は男の生殖器には興味が無くてな」

「なんでオレを撮ってるのかって訊いてんだ!」

「真実の記録」

「ハッ?」

「二十三郎にはワリイけどこーゆー脱衣系動画はいつか必ずネットにupされる。オメーも前に言ってたよな?」

「そんな……」と二十三郎の涙声。

「安心しろよ」十一郎が未だ股間開陳状態の二十三郎を見てニヤリと嗤う。

「コイツを黙らせるために脅しは必要だろ?」

 だが二郎もニヤリと嗤い返した。

「んなモン当てになるか? テメーだけが動画を撮ってるわけじゃねーだろ?」

「あ?」

「そんな! まさかupしたの⁉」二十三郎が悲痛に叫ぶ!

「テメ、煽られて因縁つけてるんじゃねーぞ!」十一郎が二十三郎に凄んだ。しかしお前の相手はこっちだと言わんばかりに二郎の口が動く。

「その調子じゃあもうやってんな?」

「あ? 誰がそんな足のつくようなことすんだよ!」

「ああそうか、誰かに命令してupさせたのか」

「あ?」

 (あ、じゃねーんだよ。それしか言えねーってことはさては図星だな)二郎は思った。

「本当に足がつかないことを考えられる利口なら後で〝悪事の動かぬ証拠〟にしかならねー動画なんてそもそも撮るか? 晒しの刑にするために撮ってるんだろ?」スマホを前方にかざしながらなおも二郎が喋り続けている。ピクぴくピクといよいよ十一郎の顔が引きつっていくのを二郎は見逃していなかった。

「なんねーよ証拠には」十一郎が反応した。この反応に僅かな優越感を二郎は感じる。

「確かにupしても証拠としては半分程度だな、カムフラージュ加工すりゃ半分にもならねーかも。だからオメーを撮っておく必要がある」

「あ? どういうことだよ?」

「みんな二十三郎だけを撮ってるからよ、誰がやらせたのか、やらせたヤツの顔が解んなくなるからな」

 二郎がそれを言ったその瞬間十一郎の顔がほぼ狂人と化し身体が跳躍した。

「二郎っスマホ寄こせっ!」

 うぐおっ! 急襲を受け何かを言う間も無く二郎がよろめく。動画撮影中の分だけ体勢は無防備。げっ! という次の叫び声。そこにすかさず蹴りが入っていた。二郎の手にしていたスマホが床の上をすっ飛んでいった。さらにダメ押し。床に転がった二郎に数発の蹴りが入る。

「なんでえテメエ、てんで弱ぇえじゃねーか!」

 勝ち誇ったような雄叫びを上げ斜め下を見下ろす十一郎。この時二郎のスマホは奪われていた上にひびも入っていた。

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