第5話【イジメ動画】

「いやだーっ、やめてやめて撮らないで!」男子高校生の大泣きの泣き声。

「これはな、剃った毛がどれくらいで元通りになるかっていう貴重な記録映像になるんだよ」

「いやだーっ!」

「早くズボン引きずり下ろせ」

「ご開陳、ご開陳」

「やめ——」

 ふぐ、ふぐ、ふぐっ。

「十一郎さん、口の中に二十三郎君の靴下詰めといた」

「十五郎、ナイスアシスト」

 んんっ!

「動くんじゃねえ! 撮れねえだろうが! ちゃんと股開かせて押さえてろ」

「初体験じゃないんだしそんなに恥ずかしがらなくても〜」

 んんんっ!

「動くなつってんだろ!」

 どすっ! ぐへっ。

 ひとつの音、それにひとつの声。そしてすすり泣き。そのあと『抵抗の音』はすっかりしなくなった。

 放課後の教室は一人の人間にとって地獄になる。

 クラスの男子全員、ここから立ち去ることは許されないという空気がある。


「おっ、ちょっと生えてきたね〜」

「ちゃんと定規当てて長さ計っとけよ」

「解ってるって」

「ついでに本体の長さもな。ひょっとしたら成長してるかもしれねーし」

「でもいっつも勃っちゃってるけど」

「案外コイツも嬉しがってるんじゃね?」

 十一郎と十五郎のやり取りに、ドっと周囲も笑い声。


 しかしスマホいじりに夢中になっていた十一郎はこの時初めて気がついた。今までに起こったことのない事態が始まっていることに。

「オイ、どこにスマホ向けてんだっ⁉」

「お前」

 声の主は二郎。スマホを構えている。遂に二郎が立ち上がっていたのだった。

「オレじゃねーだろ二十三郎だろ!」十一郎の顔からはさっきまでの〝心の底から愉しんでいた〟というその笑みが、もはやすっかり消えていた。

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