人斬り
「なんだよ。そんなに俺様のことを白めに見ていたのかよ。見る目がねぇな」
「うるせぇ! むしろ逆だ。お前、現在進行系で人斬りやってるじゃねぇか」
見た目だけはいいんだ。軍服みたいな衣は似合っているし、装飾品もオシャレだしよ。
だが、こっちにとっては幽霊と出くわしたような気分だ。
頭をよぎったのは血の海の中心にたたずむ相手の姿。あのとき
「俺様は仕事でやっているだけだぜ。分かったら、失礼なことをぬかさず、黙ってひざまずけ。俺様と貴様の立場は幹部と部外者だぜ」
しかもこの態度である。
男はソファの上でふんぞり返っている。
「その男の認識にも一理あるんじゃねぇの? 前皇帝が倒されてから人斬りをやっていて、今の皇帝に倒されて、所有物と化すまで暴れまわってたんだろ」
「なに昔の話を言ってやがる」
カードをいじりながら言う仙人に対して、男は渋い顔をして言葉を漏らす。
なんだよ。結局、人斬りはやっていたのかよ。
まったく安心できねぇな。
「だいたい、初対面の相手に向かってやる態度じゃねぇだろ。それ」
「ああ、そうだな。だが、俺様は貴様のような間抜けな男と仲良くする趣味は持ち合わせちゃいない。そうだな……女であればもっとよくしてやっただろうがな」
チッ。めんどくせぇな。
というかここ、まともなやつがいねぇんじゃねぇか。
「主のいう女ならとは、甘言でたらしこむだけじゃねぇの? 腹の中はなに考えてるのか分かっちゃもんじゃない」
「あ、知ってたか? 別に気づかれなけりゃ、いいだろ」
仙人の指摘に対して、何食わぬ顔でこぼす男。
「ああ、わたくしに優しくしてくれるとは思っていたけれど、そんな裏が」
「悪く思うなよ。よくしてやったのは事実なんだ。そこは素直にありがたい思っときな」
「ありがたく思えるか!」
俺が声を張り上げると、相手は露骨に嫌そうな顔をした。
「底辺にただよっているやつが、俺様に指図するもんじゃねぇよ。なんなら、ここで縛り上げちまおうか」
「いや、それは勘弁してくれねぇかな。俺、お前にケンカを売りにここに来たわけじゃねぇから」
「売ってるじゃねぇか、現在進行系でよ」
ドスのきいた声に体が縮み上がる。その眼光は狼や猛禽のように鋭く、気を抜くと射殺されそうな凄みがあった。
やっぱりこいつを敵に回すべきじゃねぇや。今はおとなしくしておくに限る。
「子どもをいじめるんじゃないわよ。少しは反省なさい」
「あぁ? ガキだからこそ面白ぇんだろうが」
「この人やっぱり、性根が腐ってますね」
戒めるように
当の本人は悪びれなく、ソファに深く腰掛けたままだ。
俺ってそんなに若く見えるかね。精神年齢はそれくらいだけど、ショックだ。
「それから、そろそろ本名を教えたほうがいいぜ?」
「本名?」
あっけに取られる。
そんな俺をあざ笑うかのように、男は笑みを浮かべる。
「そういうのどうでもいいじゃねぇか。
その発言に妙に少女が反応を示す。なにかが語られることを恐れるように瞳が動き、肩を震わす。その意味が、俺には分からなかった。
「僕はこの国の法に従っているだけだよ。君と一緒にしないでほしいですね」
「貴様と一緒にされるほうが俺様としちゃ、ムカつくわけだが」
この発言は、アレだな。
男は相手を自分よりも劣った者と、考えている。だから一緒にしないでほしいと言うわけだな。本人もプライドが高そうだし、実際にそう思っていそうだ。
それにしてもこいつら、仲が悪いな。本当に同僚か?
仲間同士勝手にやってくれ。
俺もバカにされそうだし、一緒にしないほうがいいな。
そんなこんなで、俺たちはこの場を後にする。
「彼らとの関係は、つかず離れずといったところで」
「絶対に離れちゃいけないってのも、イヤなんだけどな」
「仕方がありません。いくら避けたとしても、彼らとは関わる羽目になるものなのです。この宮殿に住まう限りは」
罰ゲームかなにかかよ。
「せめてみんな女だったらな……」
「ああ、女性ならたくさん住んでいますよ。このあたりに」
「え? マジで?」
思わず食いつく。
「ええ。宿舎のようにもなっていますし。おそらくこの宮殿内の建物の何割かは、彼女たちの部屋です」
女性が大量にいると分かるとなるや、一気にこの都が楽園に思えてきた。
「でも、どうでしょう。彼女たちはあなたに興味を持つか否か」
「ナチュラルにひどいこと言ってませんかね」
俺が指摘をすると、急に少女は真っ赤になって、首を横に振った。
「失礼しました。ですが、彼女たちは厳しいのです。皇帝ならいざしらず、普通の者との面会は厳しいかと」
なるほど、花魁みてぇなもんか。
無理ならあきらめるしかねぇな。強引に割って入って怒られるようなマネをしたら、出禁を食らいそうだし。こういうのは地道に積み重ねていくに限る。
それから俺たちは、都にあるあらゆる施設を見て回った。そこは厨房だったり、食堂だったり、いろいろなものがあった。この都にさえいればなにもいらねぇんじゃないかってくらい充実していた。そりゃ、広くなるはずだとも思った。
案内が終わるころには日は落ちて、俺たちは別れた。そして、宮殿内で一夜を明かすのだった。
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