紹介
「主よ、イカサマやってるんじゃねぇの?」
「俺様は知らんぞ。気がついたら勝利が手元に舞い込んでいただけでよ」
「とぼけても無駄じゃねぇの。わしはきちんと見ていたのだからな」
「さあ。証拠がねぇな。やられたというだけなら、なんとでも言えるんでな」
戻ってきて早々、騒がしい。
トランプゲームで反則行為を行ったらしき男に、仙人が食いついている。
どちらが嘘を言っているのか分からないが、白々しくカードを整理している男は怪しい。こいつは詐欺師に近い雰囲気を感じる。見ろよあの尖った目を。まるでナイフのようじゃないか。
「なあ、あれ」
「常習犯ですし、間違いなく彼のせいです。名はえーと……」
少女はなにかを思い出すように、上を見上げる。
「貴様は本当に負けず嫌いだな。こういうときにさっさと負けを認めるのが潔さってもんだぜ。ああ、いや、貴様はそこまで頭が回らないほどおろかで醜い生き物だったか。ああ、そうだな。俺様の相手にはふさわしくない。いずれにせよ、負けは負け。それだけが事実なんでな」
「おいおい。言いたい放題言いやがって」
なにやらいよいよケンカが始まりそうな雰囲気である。
「まあまあ。なにを遊戯ごときにマジになってるんですか? 別にいいじゃないですか。負けても勝っても」
「あぁ!?」
その言葉にテーブルを囲っていた二人が同じ反応を示す。
これには少年もひるんだようで、顔を引きつらせながら後ずさりする。
たいへん空気が読めていない発言だったが、正論だ。俺としちゃ、生死に関わるものでもなけりゃ、勝とうが負けようがどうでもいいからな。
「あらあら、どうしましょう。いつものこととはいえ」
「いつもやってんのかよ」
子どもじゃあるめぇし。
「おい、
「なによ?」
いきなり仙人が声を張り上げる。
こいつ、声大きいな。
「答えろ。どっちが黒か」
「どちらが黒もなにも、彼は白よ」
彼女が指したのは、鋭い目付きをした男だった。
「は?」
仙人は間抜けな顔をする。
「クハハハハ。今回はな。俺様が、貴様ごときに見破られるようなイカサマをすると、思ったか?」
男は得意げに笑う。
「証拠は?」
「あたしが見ていた」
「なら、しょうがねぇや」
どうやらこの場にいる者たちにとって、
「それで、客人のようだけど?」
「お前も好き勝手に動けるような立場でないことを覚えておきなさい。監視されているようなものなのよ?」
「監視されてる?」
なにそのディストピア。
「ええ。下手な真似をしようものなら、あの忌々しい皇帝が飛んでくるわよ。やつはおのれの役目だけには忠実だからね。国外――たとえ絶海の孤島に逃げ込んだところで、無意味。完璧に追い詰められるわよ」
うげぇ……、それはイヤだな。
厄介事は起こしたくねぇし、できるのなら穏便に事を運びたいところだ。
「ここにはなんの用?」
「いえ、別に。ただ、案内をしにきただけなのです」
「あら、そう」
女の返答は軽かった。
「とにもかくにも、ここにいる者たちの紹介はしておいてもいいんじゃない?」
「ええ。だからわたくしから」
「まず、こちらにいる女性は
「甘いは余計よ」
「それから、翼の生えた方は
「オッス、よろしくな」
金髪に鮮やかな空色の瞳をした男が、にこやかに近づいてくる。
「君って外の世界から来たんだっけ? 僕と境遇は同じだね。こっちは異国の民ってだけだけどね。困ったことがあったらなんでも聞くといいよ。相談には乗るさ。あと、できれば好みの女性とか、趣味なんかも教えてくれるとありがたい。僕の場合は、そうだね。空を飛ぶことは好きだ。君もぜひ、飛んでみるといいよ。僕の治める地方にも遊びにきてもいい。特別に航空券を無料で渡そう」
勝手に荒ぶりはじめた。
いいやつっぽいのは確かなんだけど、友達にすると面倒だな。とりあえず、関わりたくねぇ。
俺って陰の気がある上にインドア派なんだよ。こういうやつと一緒にいると、外出につきあわされそうで面倒だな。
「俺、お前に興味はねぇよ」
そう言うと、ガーンと音が鳴りそうなくらい、
あ、悪い。言い過ぎだった。でも、友達にはならねぇって意志は変わらねぇから、そのつもりで。
「あとは……」
「俺様は
「元殺人鬼のな」
「嘘をつけ!」
仙人の紹介に思わずツッコミを入れた。
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