妖刀
「ところで仙術に興味があるか? いや、持っただろう?」
「話の切り替え、無理やりじゃないですかね?」
あきれながら言葉を返す。
「確かに仙術は身につけたいと思いますよ。ロマンがあるし」
中二心をくすぐられるんだよな、オカルト系って。これでもし土の属性以外にも属性を身につけられたら、こっちのもんだ。
友人のことは心残りだが、立ち止まってばかりではいられない。さっさと切り替えねぇと、なにも始まりやしねぇ。
そんなわけで俺は仙人と一緒に、洞窟に戻る。そこで仙術が使えないか試したり、護身術を学んだりした。
「安心しろ。わしに従事した者は必ず報われ、大成する」
「期待していいんだな? いいんだよな?」
「当然じゃねぇの」
よし、勝った。
俺の最強への道のりがついに始まったわけだ。これであっという間に強者への階段を上って、いろんな敵をバッタバッタとなぎ倒していく。そんなドラマを展開できる。
ところが――
「なんでだよ!」
森の中で戦いを繰り広げたが、仕留められたのは狼一匹程度。ほかの敵にはあっさりと逃げられた。
いくら戦闘の経験を積もうと、成長の兆しは見えない。結局のところ本物の仙人に従っても、俺は成長できなかったのであった。
「いやぁ、ずいぶんと豊かな才能を持ってるようでなによりだぜ」
「うっせぇ」
この期に及んで煽ってきやがった。
この仙人、インチキか? 師事したものは必ず大成するとはなんだったのか。
「わしのせいじゃねぇぞ」
「いや、あんたのせいですよね? 約束したんだからな」
約束は守らねぇといけねぇよ。それが例え不確かなものであってもな。
「しかし、おかしいな。わしとしては主の潜在能力を開花させたつもりなのだが」
「へー。そうなんだ……」
一人でなにやらブツブツ言っている仙人を置いといて、鍛錬に励む――と言いたいところだけど、成果がなんもねぇんじゃ、やる気も失せるわ。
やめだやめだ。なにも得られなかったということで、諦める。
俺は妖刀を放り投げた。刀が宙を舞う。地に近づく。そして、その刀は完全に落下する前に、手元に戻ってきた。
思わずヒェッ……と身の毛がよだつ。なるほど、これが妖刀か。
「妖刀……」
なにかを思い出したかのように、仙人が低い声を出す。
「主、妖刀に経験値を吸い取られてんじゃねぇの?」
「は?」
「仮説だぞ。ただその刀は、血を吸って成長する。戦えば戦うほど強さを増していく。主はともかくとして、妖刀の仕組みだけは確かなんだ」
「さりげなく俺のことをディスってねぇか?」
仙人は俺の文句を無視して、続きを述べる。
「試しに、そこな木を切り倒してはどうだ?」
「ふーん。試しに、な」
言われた通りにやってみる。
すると刀は勝手に動く。それを制御しにかかるが、難しい。むしろ俺が刀に支配でもされているかのような感覚。そして刃は見事に木を切り裂き、土の上に倒した。
「げ……」
切れ味を見て愕然とする。武器としちゃあ優秀だが、危険すぎやしねぇか……。
「せいぜい乗っ取られぬように気をつけるこった」
「遅ぇよ! 手遅れだ!」
のんきなことをのたまう仙人に向かって、噛み付くように叫ぶ。
今も、怨嗟の声が触手のように全身にまとわりついているような、有様だ。これが気のせいかとギリギリ思える程度だったからよかったものの、本当の声が言葉として聞こえていた場合、あっという間に気が狂うぞ。
やべぇよ。妖刀に全てを乗っ取られて、血に飢えた獣みてぇにあらゆるものを切り裂いちまいそうだ。
そうなった場合、どうなるんだろう。指名手配犯となって、警察っぽい連中に追われて、檻の中に閉じ込められるってか? 笑えねぇよ。
額を抑える俺に対して、仙人はなおも冷静に言葉を繰り出す。
「案ずるな。本体は抜けているだろ。現在の能力はその残滓によるものなんじゃねぇの?」
「余計に怖くなったぞ。なんだよ残滓って。そんなもんでこれだけの力を発揮できるのかよ?」
だったら本体はどれだけのものになるんだ。
「恐ろしいのであれば返却してこいよ。本体と出会えば引き取ってもらえるんじゃねぇの?」
「まじで? いるのか、本体? どこに?」
というか返却ってどうやるんだ? 本体ってどういう形をしているのかすら分からねぇし。あれか? 刀が擬人化でもしてんのか。
「そうだな……世間でいう王都。青の都へ向かえばいいんじゃねぇの?」
「青の都?」
「ああ。幻と呼ばれているがな、わしは知っているのさ。その場所を」
幻? 俺にとっちゃ、そんなものがあること自体、初耳だ。
当然か。この世界には来たばっかりだからな。
「わしもそこに用があるのでな」
「だったら俺も連れて行ってくださいよ」
「いや、主の歩みに付き合っている暇はないしな」
仙人はなにやら葛藤を表に出す。その意味が分からず、首をかしげる。
「さっさと謝りにいかねばならんことがあるんでな。面倒なことだが、無能だなんだと言われてもおかしくはない」
なにやら訳がわからないことを言っている。
そのセリフはおそらくおのれの中で自己完結しているのだろう。だから俺に対してのものじゃない。
それでも、他人の言葉の意味が分からないというのはモヤモヤが募る。俺は眉間にシワを寄せながら、唇を一文字に結んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます