第6話 呪いによる解放 上

「貴方にぴったりな姿でしょう?」

救世主はささやいた。


皆が褒め称えた見た目?

イラナイ


女性を魅了する声?

イラナイ


持ってはならない、持っていてはいけない、

だって、皆が近づいてくるから。


皆が大切に思えてしまうから。


「御剣!」

ヤメテ、僕に抱きつかないで。

「今度、遊びに行こうぜ!」

ヤメテ、関わらないで。


「えっとね?実は…」

やめてくれ!

その次の言葉を言わないでくれ!

僕は、僕は僕は僕は僕は!


君たちを殺したくてしょうがないんだ!

罪悪感を!

後悔を!

僕に大切な人を殺すという事を!

もう、させないで!



「勇者として、英雄として、僕は選ばれた」

ああ、これが、使命。

「僕の行動で、一緒に来た皆の扱いも、変わるんだろうな」

ああ、これが、責任。

「でも…」

ああ、殺したい。

ああ、犯したい。

悲鳴を聴きたい、恐怖に染まる顔をぐちゃぐちゃにしたい、笑って笑って、本当の自分をさらけ出したい。

「ヤメテ」

殺そうよ。

「嫌だ」

楽しいよ。

「楽しくない」

嘘をつかないでよ、だって君は…

「言うな」

僕は…あの時…

「やめろ!!」

あのスラム街の事件、楽しかったでしょ?

君の〝欲求〟は人間にしかでない。

モンスターや別の種族を対象にならない。

でも、だから…

「僕は!僕は!」

君は人類の敵なんだ、人間として産まれてしまった時点で、君は罪を背負っている。

「でも!僕は!」

人間だとでも?

「そうだ!僕は!」

人を殺すときに、恍惚とした、笑顔を浮かべてるくせに?


でも、それ以外には慈悲を持っていて


例え蕃族でも、動物でも


本気で心を痛める異常者が?


「違う!違うんだ!」

認めろ。




清々しい。

とても清々しい気分だ。

僕は今、やっと、呪いから解放された。

もう、我慢しなくても…

自分の衝動を表にだしても、いいよね?

「ナゼナラバ、ソノ、ホンショウコソ、

バケモノニフサワシイ」

さあ、全てを、喰らおう、犯そう、

殺そうよ。

だって、僕は今魔物だから。

それが、魔物がすることだから。

仕方ないでしょ?

ああ、救世主が見ている。

アリガトウ、ゼンブ、コロスカラミテテネ?



その日、ある一匹のバケモノが産まれた。

それは全てを殺すために産まれ。

全てに憎まれ恐れられる為の存在。

彼は、バケモノらしく、全てを屠り、犯して自分の衝動に従ったのである。

心の拠り所など無く、ただひたすら己の欲望を叶える。


ただ、そのような存在へと成り下がっていた彼も、勿論無敵ではない。


「・・・」

「グルル…」

「おい!何故私が貴様らの手伝いを…!

いや、いってる場合ではないな」


三人の冒険者らしき人物達が彼を止めた。


「アハァ…コロシガイ、アリソウダヨォ」

彼は笑う。

ただただ静かに。

そして、

「シンデ?」

巨大な大剣を力の限り振るう。

一番小さく、装甲も何もない少女を真っ先に狙った。


それが駄目だった。


少女は消える、あまりの速さに消えたように見えただけではあるが。

「ガッ!」

「?」

少女は横を通りすぎる。

まだ、何も起こらない。

彼は再び斬りかかる、がそれを土の壁が邪魔をする。

「チッ」

舌打ちをし、壁を壊そうとする。

だがそれがまずかったのだと、すぐに彼は悟る。

いきなり壁が粘土へと変化し、彼の大剣をからみとったのである。

勿論彼はそれを引っこ抜こうとする、いや

引っこ抜けたのであるが、なんということか!

大剣は、折れていた。

あの時、少女は大剣を狙い手刀で切れ目を

作った。

そしてその切れ目により大剣は簡単に折れてしまったのである。

「ガッ!」

「!」

そして頭に向けての攻撃。

恐るべき速さでせまるその一撃を彼は防ごうと腕を動かそうとした。

しかし、動かせない。

「フム、まだまだだな、改良が必要か?」

それは、彼の腕に謎の触手が巻き付いているからであった。

彼は、攻撃をモロに受け、気を失ってしまうのであった。



「…それにしても、実験の失敗でこうなったとはいえ、中々に便利だな、この触手」

彼女は自分の腕をまじまじと見つめ呟くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る