第5話 罪と罰、囚人と断罪人

じゃらり、と暗い密室に無機質な音が響く。

その暗い部屋には一つの蝋燭の火以外の灯火は無く、

また外界との繋がりを持つものは簡素かつ、重苦しい扉以外に無い。

その部屋は俗にいう、拷問部屋、というものであるのだろう。

まるで芸術品のようにきらびやかでありながら、あからさまに苦痛を与えることを容易に伝える形をしている、そのような美しさと

本来は結びつけられない筈の器具達がただ、その場に鎮座している。

蝋燭の火に当てられた鋼鉄の処女はその中を、真っ赤に濡れた中身を見せること無く、そして棚に並べられた美しい道具達は二つの〝別々の〟こだわりを察してしまう。

しかし、異常な事実が一つ。

それはこれらを使ったことがあり、そして

使われたことがある人物は一人だけ、

と言うことだ。

つまるところ、ここは完全にこの部屋の主人である、何者かの異常な趣味の部屋なのだろう、と想像するのも容易であるだろう。


意外とこの部屋は広く、部屋の至るところに様々な〝芸術品〟が置かれている。

それはある、一つの例外と最低限の生活用品を除きほとんどがこれらで埋め尽くされている訳である。


さて、

先程の音について、察している方もおられるであろう。

壁に無造作のようでよく考えられ配置された鎖の音である。

ただしかし、主人曰く、この鎖だけではこの芸術は完成しないという。

この芸術の完成には、美しく、それでいて

虚無感、閉塞感、絶望等のスパイス、そしてチラリと見える〝芸術品〟に過去を想像させ世界に入り込ませるための


被写体、が必用との事である。

つまり、現在鎖は…


「ねえ、楽に…早く、解放して…

冷たい、ああ、ああああ!嫌だ!嫌いだ!

鎖が、あああ!」

一人のいたいけな少年を無慈悲に捕らえていた。

己の血で汚れ、所々痛々しい…いや、吐き気すらも催す傷口。

淡い金色の髪の毛は輝きを失っている。

「もう、いやだ!助けてよ!ねえ!ねえってば!」

サファイアのような青い瞳はもはや汚れ、

充血しきっている。

「傷が、血が!早く!ねえ!早くしてよ!

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く」


パシャリ


この空間の中の唯一の例外、

それが、このカメラ。

魔石とよばれる結晶体を使いその場の景色を永遠に保存する道具。

そして、〝彼〟の芸術に欠かせないもの。


だが、既に目標を達成したにも関わらず、

この撮影会が終わることは永遠に無い。

というよりも、既に、かなり前から〝彼〟は

コレを気に入っていた。

思いの外いい写真…いや芸術品が撮れるのだ。

止める気など起こるはずもない。

現に、この写真は一部の者達から絶大な人気を誇っており、収入もかなりの物となっている。

いや、収入等は関係ないのかもしれない。

何故ならば…

〝彼〟自体、この行為によって手にはいる

写真をかなり、気に入ってるからだ。

写真が撮り終わり、次の瞬間、少年は糸が切れたかのようにガクリ、と気を失った。

ズタズタに切り裂かれた腕に僅かに残る、

あの…

〝貴族印〟が残っていた。



「フム…これはこれは、久しぶりに良いものが撮れたのう」

満足げに腕を組みこの写真部屋で飾った写真を〝彼〟は見ていた。

「…また、ですか貴方は」

「んむ?おお、これはこれは!」

歓迎するかのように、いや本気の歓迎の意をこめ〝彼〟は笑う。

「久しぶりですなぁ!どうですかな?わしの新しい作品なんじゃが…」

「止めてくれませんかねぇ…」

そう、嫌悪を隠そうともせず〝黒幕〟は顔を歪める。

「む、そうでしたなぁ。

貴方さまはこのような作品を好みませんでしたなぁ!」

カッカッカ、と何とも愉快そうに〝彼〟は

笑う。

「その気持ちもわかります、何せわしもこのような物は本来は、好むたちではありませんからなぁ」

「…ええ、だから貴方は異常なんです」

「いえいえ、わしの作品とあのような異常なゴミでは違うところがあるでしょう?」

〝彼〟は嗤う。

「…ええ、全く、本当に貴方はイレギュラーです」

〝黒幕〟は吐き捨てる。

「カッカッカ!貴方さまの趣味は知っておりますし、ある意味それもまた、小説等の娯楽に通じる物があるのでしょうが…」

「私にだって好き嫌いはあります」

「カッカッカ!しかして、もしこれが

〝子供でなければ〟貴方さまからの評価も

違ったでしょうなぁ!」

「それならば良いのですが、ね」

「しかして、それについてはわしをこのような存在として産んでしまった母上を恨んでいただきたいですなぁ」

そういった〝彼〟の視線は首にかけている

ロケットペンダントの中にある写真に向けられた。

そこには美しい貴婦人と、一人の少女が写っていた。

「おやおや?いい写真ですね?」

「ここには、わしはいません」

悲しそうな目で彼は言う。

「これは、わしとは似ても似つかぬ、しかして認めたくはないがわしと同じ者…」

「貴方の母上は…」

「ああ」

〝彼〟はペンダントを閉じた。

「もう、手遅れなのだ、全てが遅い、何故、わしは…」

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