第3話

勇者ミツルギの謎の失踪。

その情報は国中をざわつかせた。

ある者は死んだと言い、またある者は旅に出たという。

だが、まだ王国の敵であり勇者が倒すべき相手、魔王を倒しておらずその為勇者は怖じ気づき逃げた、と言う噂も出始めた。

また、勇者の仲間達もこの話を聞きそれぞれ思うところがあるようだが…。


「がーおー」

国中に不安が広まるなか無邪気に笑いながら平原を走り回る少女。

少女は何も不安を感じてない。

なんせ、勇者がいなくなった事に関し全くと言っていいほど関心がなく、またそもそも

(少女にとっては)小難しい話であるため理解していなかった。

少女の名はエクレア。

名前の由来は一番早く覚えた言葉がエクレアだから、らしい。

元々少女は高貴な生まれらしく、腕にこの国の貴族が生まれたときにいれられる紋章、

貴族印が刻まれている。

が、まあこの通りと言うべきか、彼女はまともな言葉を話せず、話せるのも名前と食べ物ぐらいというのが現状であるが。

しかし、話せるだけまだましと言える。

エクレアを遠くの木の下で見守っているのはエクレアの相方であり保護者、エヌナイン。

彼女は先天的なのか、はたまた後天的なのか声を出すことができず、更に表情を変えることができない。

しかし、〝継ぎはぎ〟だらけの顔で表情がよく変わる、というのも不気味であるだろうが。

女性にしては大柄であるのだがこれでも彼女は魔法使い、らしい。

だが魔法使いには詠唱が必須であり、勿論彼女が魔法を使う事は〝ある事をしなければ〟できない。


「・・・・」

ピョンピョンと飛びはねエクレアにそろそろ帰ろう、と伝えるエヌナイン。

エヌナインは相手に情報を伝えるために身ぶり手振りで伝えなければならないのだが意外と彼女は感情が豊かなのでは?と思うほど彼女は動くのだ。

冒険者の中にはこのギャップにひかれる者も多いらしく、少なからず彼女に恋する者はいるのだ、が。

彼女に近づけない理由が二つあるのだ。

一つはエクレアに威嚇され中々物理的に近づけない事。

もう一つは、


彼女達二人が国の中でも60人しかいないA級冒険者だからだ。

そこいらの馬の骨が気安く関われる訳ではない、と言うことだ。

…ああ、気安く関われる存在ではないはずなのだ。


「・・、・・・・」

「あー、あー!」

「ああもう!なんなのだ!本当になんなのだ貴様らは!」

何故そこいらにいるC級の私になついてしまったのか、この謎は学院で天才だのなんだの言われた私でさえ解けない難問である!

「ああ、ああくそっ!服を引っ張るな!

それとエクレア!汚れた手で触るんじゃない!…なに?プレゼント?ああもう!」

悪意が無い分やりづらい!

あと何故エヌナインは私の服を掴む!

何故私の後ろに隠れるのだ!

冬の間学院で研究にいそしんでいたらいきなり二人が来るわたまった分だの言って

(何となく解る)毎日の様に外に連れ出してくるわ!

「ああもう!ああもう!!わかった、わかったから!冒険についていってやる!ついていってやるから離れろ!」

くっ、今度は、今度こそはコイツらと離れようと思ったのだが思いの外しつこい!

ああ…私の研究時間が…。



「おい!場所をわきまえろ!こんなところでもくっつくんじゃない!ギルドだぞ!

ああ、くそっ!見るんじゃない!」

いやぁ、今日も騒がしいですねぇ。

久しぶりに王都によってみれば、本当に仲が良さそうで。

…ん?ああ新入りの方ですか?

その服装を見ると遠くからの方ですかね?

どうも、私は村をまわって商売をしているものでこざいます。

商人とお呼びくださいませ。

あのお方達は…まあこの第6ギルドの名物と言いますか、自由を至上とするこのギルドならではの光景ですよ。

アルターさん…あの叫んでいる小柄の女性が研究に没頭してからは見なくなっていたのですがね。

…おや?

驚いているようで。

ええ、貴女が思い浮かべている通りの方々でございます。

アルターさんは、まあいろいろあるようでまだC級ですがあの二人をなんとかできる唯一のお方ですし、実力も十分ありますしね。

…私の〝プレゼント〟を受け取らない精神力もありましたし、有望ですよ。

と、いえいえ、なんでもありませんよ。

…おっと、そうですそうです、実は良いものがありましてね、どうです?

貴女にぴったりの〝力〟、ありますが…?

いかがでしょう?

ああいえいえ、怪しい物ではありません。

先ずはお試しで、要らないと感じればすぐに捨てて貰って構いませんので…ね?



「うーん、やっちゃったなぁ…大変な事にならないといいけど、僕の悪い癖だよね、次も気を付けなきゃ」

やはり直す気は無いのだな…。

まあいい、そんなことより、

「いい加減にしろぉぉお!」

コイツらをなんとかしなければな。

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