最終回 まあ、いいってことさ
今、目の前には勇者どもがいる。こうして見ると迫力がものすごい。さすが魔王と対等な力を付けただけのことはある。あらためて言うが勝ち目などあるはずがない。
ゴブリン達は今更ながらに後悔した。本当に作戦はうまくいくのか、草むらに隠れて勇者どもをやり過ごすという手もあったんじゃないか。
だがもう遅い。勇者どもと目があってしまった。勇者どもの表情は相変わらず無表情のまま、まるで野良犬を見つけたかのような目。それが余計に怖い。
今逃げればまだ間に合う。逃げたところで追ってはこないだろう。
いや、それではダメなんだ。勇者どもが逃げるという形を取らないと裏切り者として魔王に殺されてしまう。
「皆、ビビってないか?」
ゴブリンⅮが問う。
「ビビるわけねえだろ」
ゴブリンAは嘘をついた。体中から汗が流れている。
「ケッ、今更ビビるか」
ゴブリンBはひざがガクガクと震えている。
「だ、大丈夫、びびってないよ」
ゴブリンCは今にも気を失いそうだ。
そんなゴブリン達を見て勇者どもは何かを話しているようだが何を言っているのかはわからない。
きっと勇者どもは、あいつらはただのゴブリンだからさっさと素通りしようぜ、と言い合っているのだとゴブリン達は思っている。そう、期待通りに。
勇者どもがこっちに向かって前進してくる。
ゴブリン達はとりあえず武器を持って戦うフリをしているが、それぞれが押すな押すなともめている。
大丈夫だ、絶対勇者たちの方から去っていってくれる。俺たちは単なるゴブリンだ。きっとこのまま自分達の横を最初から何もいなかったかのように素通りしていくはずだ。
さあ、勇者どもよ、我々などにかまわず先を急ぎたまえ。魔王はこの先にいるぞ。そして勇者どもが魔王を倒してくれるなら、それはそれで好都合だ。
本当にそうなってくれればこうして勇者どもの前に立ちはだかった甲斐があったというもの。ゴブリン達はそう思った。
だが、ゴブリン達の期待は完ぺきに外れた。
勇者は伝説の剣を握りしめ、華麗な剣さばきでゴブリンAに切りかかった。
戦士は渾身の力を巨斧に込めてゴブリンBに振り下ろした。
武闘家は鉄をも貫く拳でゴブリンCに殴りかかった。
魔術師は巨爆魔法をゴブリンⅮに放った。
勇者たちは立ちはだかるモンスターには容赦しない主義だったのだ。例えそれが最弱のゴブリンであろうとも。
ゴブリン達は当然のことながら勇者たちの攻撃をかわすことも受けることもできなかった。
ああ……。所詮俺らの運命なんてこんなもんだ。世の中は、そして勇者どもは甘くはなかった。
空の住人になったゴブリン達はそう実感じた。でもまあ、こいつらと一緒でそれなりに楽しかったしな。こいつらと一緒で本当に良かったと思う。
俺達は誇り高きゴブリン、それで十分。ゴブリン達はそれぞれがそう思った。
fin
GOBLIN BLUES ある一組のゴブリンパーティー ぶらうにー @braveman912
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