7 秘策はうまくいくか、そして勇者一行到着
「俺達の所持金だと? そんなこと聞いてどうすんだよ?」
ゴブリンⅮのわけのわからない問いかけからものすごい時間がたったような気がする。なんでこんなヤツがリーダーを気取ってんだ。いや、それを黙認してきた自分達が悪いのかもしれない。
ゴブリンAは腑に落ちないといった表情で頭を掻きながらイライラしている。いつまでコイツはわけのわからないことをいうつもりだ。
「まさか、テメェ、皆の金をかき集めて勇者どもに渡して、これで勘弁してくださいませ。とでも言って見逃してもらおうってんじゃねえだろうな?」
ゴブリンBが食ってかかる。オレ達にだってプライドはある。そんなこびへつらうようなマネはしたくない。
「そうではないさ、そんなみじめなことはしないさ」
ゴブリンⅮはかき消すように手のひらを左右に振った。皆の金をかき集めたところで安い武器一つすら買えないことは重々承知している。
ゴゴゴゴ!!! ゴオオオオオオオオオオオオォォォ!
またしても断末魔。今度は森の入り口付近で最後の砦の二つ目、番竜、ファイヤーレッドドラゴンが討ち取られたらしい。
もう時間がない、勇者たちはすぐそこまで迫っている。
「どうすんだよ、早く言えよ」
ゴブリンAは藁にもすがる思いだった。こうなったらなんでもいい、事態をなんとかできるなら、例えこんなヤツの考えであったとしてもだ。あせりの汗をぬぐいながらゴブリンⅮの言葉を待っている。それは他のゴブリン達も同様だった。
「よしわかった、教えてやる」
ゴブリンⅮは、皆もう少し近くに寄れと促した。
「つまりはこういうことだ……」
ゴブリンⅮの秘策とはいかにも運任せと言える作戦だった。
ゴブリンⅮの主張は、勇者どもにとって、自分達となど、戦う意味なんて無いという事であった。
さっきゴブリン達の所持金を聞いたのも、例え勇者どもが自分たちを倒したところで獲得する金は武器一つも買えないほどのちっぽけなもの。
それに比べて、勇者どもは数々のお宝を手に入れ、数多のモンスターを倒し、金を手に入れ、巨万の富を築き上げているのだ。わざわざ自分たちを倒してまで小銭を奪おうとは思うまい。
さらに、最弱のゴブリンである自分達を倒したところで実戦経験としてはなんの足しにもならない。時間の無駄というやつだ。
ゴブリンⅮの思惑はこうだ。
仮に自分達が勇者どもの前に立ちはだかったとしても……。
勇者たちの方から勝手に逃げていく!
わざわざ無駄な体力を使う理由などない!
自分達と遊んでる暇などない!
きっと勇者どもは自分達になど目もくれず、そこには何もいなかったかのように素通りしていくだろう。
これならば、別にこっちが臆病風に吹かれて、魔王様を裏切って逃げたわけでもない。むしろ勇敢に勇者どもの前に姿を見せたのだ。これなら裏切り者どころか表彰されてもいいくらいだ。
これぞ
勇者どもは勝手に自分達から逃げていくだろう作戦!
「!」
「!」
「!」
この秘策を聞いた他ゴブリンの目には一斉に喜びと希望の光が灯った。
「それだ! いいぞそれ! その作戦行けるぜ!」
「やるじゃねえか、テメェにしてはな」
「さすがだね、感心したよ」
もうすでに作戦がうまく行ったかのように満面の笑みで手をたたいて喜び合っている。
命拾いした、もう勇者どもにも、魔王にもおびえる必要はない。自由な未来が自分達を待っている。それぞれがそんな事を思い、胸を躍らせていた。
「まあ、お前達は大事な仲間だからな。何とかするのがリーダーである俺の務めというものだろ?」
所々イライラさせる部分はあるが気にしないことにした。
今までで一番団結力のある瞬間のような気がしたからだ。
そして仲間のありがたみをのようなものを、四名のゴブリン達は本当に知った気がした。
その時だった。木の葉がばさばさと舞い上がる音と、複数の足音が響いて来た。
その足音は、聞いただけでもただ者ではないことがわかるほどの威圧的なものであった。
そう、ついに勇者一行が到着したのだ。
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