6 ゴブリンⅮに秘策あり

 ゴブリンⅮは立ち上がり、勇者達が来るであろう方向を見ている。その後ろには他のゴブリン達がゴブリンⅮの背中を見ている。ゴブリンⅮの背中には自分の不注意で負っただけの傷がいくつもある。

 

「お前達にはいつも世話になっている。その恩返しというほどではないが、この危機を回避できるかもしれない良い策が浮かんだんだ」


 ゴブリンⅮの振り返りながらの言葉だった。


「良い策だと?」


 ゴブリンAは今度はこいつか、と思った。ゴブリンBに続いてこいつは何を言うつもりだ、どうせこの窮地を打破できるようなことは言わない、適当な思いつきのような事を言うのだろう。何しろこいつは言いたいことを言えば満足する奴なんだからな。

 ここまで来たら聞いてやろうじゃないか、リーダー気取のお前がどんなことをいうのか、逆に楽しみだ。

 ゴブリンBとゴブリンCも同じことを思っているのか、ゴブリンⅮがしゃべりだすのを待っている。


「そうだ、俺が考えた策、それは逃げずに勇者どもに立ち向かうことだ」


 ほんの一瞬、時間が止まったような気がした。そして他のゴブリン達は自分の耳を疑った。こいつは何を言ってやがるんだ、勇者どもに立ち向かう? こいつは確かにそう言ったよな? ゴブリンA、B、Cはそれぞれ顔を見合わせた。


「お前まさか潔く戦って、かっこよく死んでいくとか言うつもりじゃねえだろうな? 冗談じゃねえぞ」

「テメェはリーダーに向いてねえ、ポンコツが!」

「君らしくないよ……」

 

 他のゴブリン達は順番に言葉を並べた。

 俺たちはゴブリンだぞ、勝てるわけがない、何度も言わせるな。他のゴブリン達はゴブリンⅮに対する不満がピークに達していた。


「まあ、待て、そう慌てるな」


 落ち着いた言葉からしてゴブリンⅮの自信が揺らいだ様子はない。相変わらず澄んだ目をして他のゴブリン達を見ている。


「本当に勇者たちに立ち向かう気なの?」

 

 ゴブリンCが不安げに聞いた。ゴブリンCは自分が最弱の種族、ゴブリンだからということを除いても争いごとは得意ではない。ただ皆についていこうと必死で争いごとに今まで参加していただけなのだ。それが今度来る相手は勇者たち、恐怖は計り知れない。


「ああ、そうだ、問題ない」


 依然としてゴブリンⅮは余裕の態度をくずさない。


「いやいや、問題あるだろうが! いい加減にしろよ! じゃあ何が問題ないのか教えてもらおうじゃねえか!」


 この非常事態に、自分たちの命運も無くなろうとしているこんな時に余裕をかますなんて言語道断だ。

 ゴブリンAはもはやイライラするのもアホらしいと思いながらも声を荒げずにはいられない。


「わかったよ、教えてやる。だがその前にお前たちに聞きたいことがある。お前達、今もっている所持金はいくらある?」


 ゴブリンⅮの思いがけない質問に他のゴブリン達は「は?」という風にキョトンとした。

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