第六節

 転院の日は豪雨だった。

 屋上へ行くことは叶わず、ICUからそのまま車へ連れていかれる。

 手術を終え、戻ってくる頃に朱季はまだ入院しているだろうか。

 荷物を詰めたバッグを抱えて車に乗り込む。

 ノートが棚の中に無かったことを母に問われ、捨ててしまったことを白状した。

 母はショックを受けた様子で目を見開いていたが、それ以降は何も訊かなかった。

 30分ほど車に揺られ、大学病院に着いた。院内の照明が明るい。

 気分の問題もあるのかもしれないが、それだけで立派な病院なのだと感じた。

 医師たちとの挨拶を終え、荷物を戸棚にしまう。

 面会時間が終わると職員に告げられ、母が帰っていった。

 ベッドに腰掛けて窓の外を見上げる。

 雨が降っている日にも必ず朱季が僕の傍まで話しに来ていたのに。

 寂しさばかりが募る夜の中に、おみくじの答えを探している僕がいた。

 

 数日の間に検査室を幾つも回り、ようやく手術の日を迎えた。

 今更になって恐怖が膨れ上がってくる。

 もし失敗してしまったらどうなるのだろうか。今日で僕の命は途絶えてしまうのかもしれない。

 母の手を握りながらストレッチャーで運ばれていく。内心泣き出しそうだった。

 心配かけまいと笑ってみせたが、どれだけ上手くできただろうか。

 手術室に入り、鼻に小さいマスクのような器具をつけられた。

 何が起こるのかと周囲を見ているうちに、意識が混濁し身体が宙に浮いたような感覚に囚われる。

 話し声が遠のいていく中で瞼の裏に浮かんだのは、嬉しそうにインスタントカメラのレンズを覗く朱季の姿だった。

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