第9話 おじさん、勇者、魔王さま…… (9)

 でもね? 魔王さんと勇者さんのお二人は、正座をしている良い子の俺を無視して、相変わらず金属音を交えた剣戟の音を辺りに振り撒きながら、お互いが命のやり取りをしているのだよ。


 う~ん、でもさ、そろそろお二人は止めようよ?


 ここは天下の往来……。車で行き交う人達の目もある訳だから、流石に俺以外の人達に、お二人が只今している争い事を見つかると不味いと思うから?


 俺は二人に声をかけ注意をする事にしたのだよ。



「あ、あの、お二人? 人目もありますから……。そろそろお互い仲直りをして、喧嘩は止めた方がいいと思うのですが?」


 まあ、こんな感じで俺は、二人に対して声をかけてみた。勇者と魔王と呼ばれている人達だから。いくらお二人がかよわい女性だとしても、俺の目の前で行われている光景を見ると──。


 恐れ慄いてしまうが、俺も男だから二人に声をかけ述べてやった!


 もう喧嘩をするのはやめようと!


 でも……。


 俺の男らしくない弱々しい小さな声と消極的な態度だから、お二人の女性……。


 魔王さんと勇者さんだけれど、注意した俺の事など無視をして──。


 相変わらず、宙に浮いたままの状態で、戦闘をおこなっている……。


『カキン! カキン!』と、剣戟の音を出しながらね。


 で、でもさ、確か魔王さんて?


 先程俺に車で車に引かれて跳ね飛ばされたのだから、怪我をしているかも知れないのに?


 と、いうか!?


 魔王様は先程の車との衝突事故のために。自身のお顔に傷が入ったとか、言ってなかったけ?


 ふとさ、俺はその事を思い出すと、何とか二人の争いを止めて、直ぐにでも病院へと連れていかないといけないと思う。


 だって、魔王さんは女性だから、顔に傷でも残ったら大変……。


 魔王さんの家族に、俺は合わせる顔がないよ……。


 ッて、先程俺の脳裏に直接声をかけてきた声の主は、多分魔王さんだと思う?


 声自体が、魔王さん本人と全く一緒だったのだよ。


 でッ、俺の脳内に直接話しかけて来た時に……。


『あなた』と、俺の事を呼んでいた?


 何故だか、俺自身には解らないけれど?


 それにさ? "娘" って何?


 そんな言葉も漏らしていたのだよ。


 と、なると、男の俺が命を投じても、二人の喧嘩を止めないといけないね!


 魔王さんを助けないと……。


 と、言うよりも、勇者さんも怪我をしたら大変だから……。


 それに魔王さんが勇者さんの事も宜しく頼む俺に告げてきているから、絶対に二人の喧嘩を止める!


 勇者さんの勇気の勇の文字通りの力を俺にください神様!


 一瞬だけでもいいので!


 俺は心の中で、そう叫ぶと──!


 畏怖して震えている自身の体に喝を入れた!


 どうせ彼女もいないし、結婚もしていない俺だから、現世に未練はない……。


 だから勇気を振り絞って──。


 二人の女性の剣戟の交じり合う音が鳴る方へと、無防備に突撃──。


 飛び込んだ俺だった。




 ◇◇◇◇◇

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