第2話 おじさん、勇者、魔王さま…… (2)

 まあ、そんな訳だから、ふとさ、気付くとね。俺はもうこんな歳になっているのだよ。


 それに今は、オタクのおじさんぽくなっている容姿の俺だけれど、昔……と、言うか?


 十代の頃は、女性をナンパばかりしていた頃もあった。


 でもね、いつだったか、俺自身も余り覚えてはいないけれど?


 何故だか急にナンパや女性との気兼ねのない柔らかいくだけた口調での会話が出来なくなった。


 だから何故だろうか? と、俺は過去を思い出しては不思議に思う。


 でも今は、俺の過去の思い出話はどうでもいいから。


 今日は取り敢えず、我が家の商いでもある菓子や珍味などの加工食品の販売の仕事を終えた俺は、時間の方も余っているので、。


 今から赤穂のショッピングモールへと、マンガ本を購入しに行こうと思う?


 特に今日の俺は、県外へと出張販売にきている訳でね。


 先程も皆さんに告げた通りで、この歳になっても俺自身は、皆さまとは違い、彼女も奥さんもいない訳だから暇を持て余している。


 それに此度の出張販売先でもある、岡山県備前市日生町の五味の市だと、販売場所と宿との距離が余りにも近くてね。


 夜の時間とか暇を持て余してしまう事も多々あるのだよ。


 だから今日はいつもと違い、少しばかり遠出をして──。


 隣の街、赤穂のショッピングモールへと、マンガ本でも購入しに行ってみようかと、只今愛車を走らしている最中──。


 それもとても楽しみに、鼻歌交じりで、車の運転をしているのだ。


 だってね、独り身の俺は、毎日仕事を終えると、暗くて誰もいない一戸建ての我が家に帰る訳だけれど。


 今日のように出張販売できている時は、宿に泊まる訳だから。


 それもさ、良く利用して泊まる宿だから、女将や宿の御主人とも仲が良い訳で、遠慮など無く、気兼ねもしなくていいのだよ。


 それに今の真冬の時期は、日生町は牡蠣のシーズンだから、夜の食事の方は牡蠣尽くしだと思う?


 俺自身も牡蠣が大好きだから、今晩の料理の方がとても楽しみなのだ。


 まあ、そんな訳だから、先程も述べた通りの。大変に御機嫌な俺は、鼻歌交じりの愛車の運転をしている最中な訳なのだよ。


 ……ん? えっ? あれあれ?


 何だ、この光は!?


 俺の目の前──。


 それもフロントガラス越しに──。


 対向車のアップライトのような眩しい光……。


 と、言うか? 眩しくて大きな球体が、面前に沸いた──。それもいきなりだよ。


 まあ、こんな不思議な現象が俺の面前でいきなり起きたら、後の台詞はこうだよね?


「うゎ、ああああああっ! な、なんだぁあああっ! いきなり──。俺の目の前に光の球体が沸いたぁああああああっ! あああ、このままだと、光の球体ぶっかる──!」


 俺はこんな感じで絶叫をあげながら急ブレーキを踏んだ──!


 すると俺の愛車から、『キィイイイイイイ──!』と、ブレーキとタイヤから大変に大きな音が聞こえてきたのだよ。




 ◇◇◇◇◇





〈ガン! ガン! ガァアアアアアアン! ガン! ガン!ガァアアアアアアン!〉


 刹那──。


 剣戟の交わる金属音が儂の耳に聞こえてくる……。


 う~ん、いつもならば、大変に物静かな安息の時間……。


 だから儂はいつもならば、一人お酒でも飲みながら、書物でも読んでいる頃だと思う。


 まあ、そういった完全に日が落ちた暗闇の時間だから……。


 皆もそうだとは思うが?


 一日の中でも一番の安息の時間の時だと思う?


 でものぅ? 今日の儂はそうはいかないのだよ。


 まあ、皆も傍から見れば分かる通りだが、今日儂ははそうはいかぬようだ。


 だってのぅ? 儂は先程から、と戟と剣とで──。剣戟を交わしている最中……。


 これがまた、中々決着がつかないでいるのだよ。


 だからな、儂の魔力と体力もそろそろ限界で尽きそうなのじゃ……。


 と、言う事だから、儂ととの決着の方もつきそうじゃよ。


 だから儂はそろそろ、覚悟を決めねばなるようじゃ……。


「魔王覚悟ぉおおおおおおっ!」


 う~ん、若くて甲高い──。それも大変に勇ましく荒い声が、儂の耳に直接聞こえてきた。


 するとな儂は刹那じゃ……。


 儂自身が両手で握り使用していた戟を弾き返されて──。


 その場に尻もちをついてしまったよ。


 う~ん、そうなると?


 儂には死が待っている事になる。


 で、でものぅ? 儂には守らねばならぬ者がいるから……。


 ここで死ぬ訳にはいかぬ。


 だから弾かれた戟を再度拾い直して──。


 杖代わりにして立ちあがると──。


 気を再度奮い立たして!


「うっ、うぐっ……、そうはいかぬぞ、勇者ぁああああああっ! 儂は未だ終らんよぉおおおおおおっ! 覚悟しろぉおおおおおおっ!」


 勇者に対して怒号を放ち。未だ儂自身が勇者に対して、気落ちなどしていない事をアピールしてみせたよ。


 するとのぅ、勇者と呼ばれる者は、自身の艶やかな唇の両端を吊り上げ──。ニヤッと、笑みを浮かべると。


「そうか! 魔王! では死ねぇえええっ! ここがお前の墓場だぁああああああっ!」


 今度は儂に、勇者といわれる者が怒号を放ってきた。


 でッ、その後は、勢い任せに自身の持つ宝玉を散りばめた剣を振るい──儂へと向かってきたよ!


 で、でものぅ? 儂自身もここで死ぬ訳にはいかん……。


 何とか、勇者だけでも処理をしないといかんと思うから儂は、相打ち覚悟を狙う為に、両手で戟を握り身構えたよ。


 さあ、くるなら来い勇者──。


 魔王である儂自身も覚悟ができたよ。


 後は、勇者と剣戟を交わした時に、儂の最後の魔力と最大奥義を使用して──。


 儂共々この世界から消えてなくなるのじゃ。勇者ものぅ……


 まあ、こんな感じで、魔王である儂は覚悟を決めた。



 ◇◇◇◇◇



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