おっさんの俺が、魔王と勇者の争いを中断させたよ……(商い日和 改修版)

かず斉入道

第1話 前置き (1)

「死ぬ前にあんたの子……。そして、孫を抱きたかったね……」


何処からともなく声が聞こえてくる。


傍からある男の夢の中を覗いている者達はそんなことを思いながら、一体何処から声が聞こえてくるのだろうか? と、思ってしまった。


「ふぅ~、また三年前に他界したお袋の夢か……。ここつい最近よく見るな、この夢を……」


まあ、男はこんなことを思いながら言葉を漏らすと、部屋の時計を凝視する。


でッ、時計を凝視し終えると。


「う~ん、まだ一時なのか……。もう一眠りをしょうか……」


男は今度は、こんな言葉を漏らしながら、また掛け布団を被り睡眠へと入る。


明日からの仕事の為に……。


 う~ん、実はね、今男が言葉を漏らした通りで。今の女性の台詞は三年も前に他界をした男の母親が死ぬ間際に漏らした言葉……。


そう、独り身の彼の事を案じて漏らした言葉……。


もう、それこそ、一人息子の彼を置いて死ぬに死ねない……と、でも告げたいような鬼気迫るものだったらしい。


と、言うことだから彼も、母親が生きている間に、出来ればお嫁さんを貰い、安堵させてやりたい気持ちはあったみたいだ。


 でもね、彼俺自身が若返りし頃に、オタクと世から言われ者へとなってしまって、オンラインゲームばかりして、家の中に引きこもり。彼は全くと言って良い程女性との縁が無かったのだよ。


 特に彼が傍から見ても、一番キラキラと光り輝いていた二十代前半の頃に、外に出て働きもしないでいたから、尚更女性との縁はなかった。


と、言うことだから彼は、今でも独身生活を続けている。


 う~ん、でもね、彼の引きこもり生活も余り長くは続かなかった。


 だって先程も少しばかり触れたが、三年前に他界をした彼の母親……。引きこもりである一人息子のことが気になって仕方がない為からきた心労か?


その頃ぐらいに、急に彼の母親の容態の方が悪くなってしまったようだよ。


だから彼は慌てて引きこもり生活を辞め働き始めた。


でッ、ないと? 体を悪くした母親に無理をして働かすようなことばかりしていたら、更に寿命の方が短くなるよと。彼は病院の先生などに告げられていたからね。


と、言うことで、引きこもりであった彼が始めた仕事なのだが。彼の母親がしていた個人事業の販売の商いの仕事を手伝い覚えることにしたのだよ。


う~ん、でもね、彼が思っていた程、安易なものではなかった販売業のお仕事も。だって彼は手伝いを始めた当初から、母親に怒号を放たればかりいたのだよ。あれができない、これができないと、毎日のように……。


今でこそ彼自身も過去を走馬灯が回るように思いだせば、大変に懐かしい出来事だと思う。


 でもあの頃の彼は、何度も悔しくて、悔しくて……布団の中で涙を濡らし、声を殺しながら泣いたものだ。


まあ、それは仕方がないこと、今迄ろくに仕事などした彼だから。そんな彼がいきなり売り場に立っても、実際は何も出来ることなどない訳だから。


でもね、そんな彼に母親は、容赦無く物の売りの仕方……。そう販売いとはどう言う物なのかを、怒号を交えて教えこんだ。


それこそ、鬼気迫る感じだよ。母親自身が自分の命の灯しびが消えかけていることがわかっているかのように……。


自身の分身である男に、お客さまの流れを見て止めるやり方等を教え込んだ。


その他にも、彼女は秘伝だと息子に告げては、他にも色々な販売方法を伝授したのだよ。


お客様を自身の売り場に集め人の山を作る方法等も……。


でもね、最初は中々上手く出来ずに苦労していた彼だけれど、母親を助けたい一心で必死になって覚えた。とにかく母親を早く安堵させてやりたい気持ちがあったのだと思う。


だから彼は懸命になって覚えた。彼の母親の言う秘伝という奴をね。


それで、秘伝を覚えた後の彼は母親に。


「もう大丈夫だから、お袋心配しないでよ!」




 と、述べた。


 するとね? お袋はもう思い残す事は無いぞ! と、言わんばかりに……。


 その後直ぐに病気が急変したのだ。


 特にそれからの家のお袋は、病院通いではなくて──。


 大きな総合病院に……。


 それも入院になったのだよ。


 まあ、そんな事情の俺だから、とにかく一人で販売して回ったよ──。


 あちらこちらを売りに回ったのだ。


 我が家の愛車であるロングの箱型ワンボックスの営業車でね……。


 もう県内をあちらこちらと。


 たまにはね? 出張販売で県外にも販売に行ったよ……。


 とにかくあの頃の俺は、お袋の入院費を稼ぐ為に必死だった気がする?


 だって俺の家は、母と子の二人だけの家族だから、お袋が死んでしまうと、この世で一人ぼっちになってしまうのだよ。


 だから俺は、とにかく頑張ったな……。


 まあ、お袋までとはいかないけれど、かなり売り上げの数字も追いついてきた。


 だから俺、お袋に安心していいのだと、言いたかった。


 で、でもね、お袋様、死んじゃったよ。


 俺一人を残してね、一昨年だけど死んじゃった。


 まあ、そんな訳だから、俺とうとう天涯孤独になったみたいだ。


 だから家族のいなくなった俺は寂しい……。


 じゃ、そんなにも寂しいのなら?


 結婚すれば良いじゃないかと、皆は思うかも知れないけれど?


 もうね、俺は三十歳で、アラサーという奴だから。


 それにさ、自営業で収入が安定しないから、嫁のきてもないのよ、困った事に。


 まあ、結婚相談所?


 と、いう物に、相談してみようと思案をした事もある。


 でもね、ついついと恥ずかしくて、中々相談にいけない訳なのだよ。


 だから俺、いつまでたっても、独身貴族でいる訳なのだ。


 あああ、マジで辛いね、彼女も奥さんもいない独り身の生活は……。


 でッ、俺は本当の所は、淡い新婚生活を夢見る、少しばかり年頃を過ぎたおじさんなのだよ。


 それに俺自身も会社勤めでもないから、ついついと引け目に感じる──。


 特に女性に対してだけれどね。


 まあ、そんな訳だから、年々自分自身に自信が無くなり、引け目に感じるし、引っ込み思案にもなっているよ。


 だから俺は、気立ての良いお嬢様達現れても、恥ずかしい訳で、全く告白など出きないでいる訳なのだ。

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