第4話 七月二十九日

 今日も夜がやってきた。来てほしかった訳ではないが、そんなことを意識して一日を過ごしている訳でもない。何となく、一日が終わるという感覚を噛み締めていた。

 今日は、学校での日本史の夏期講習に、担当で、僕の恩師である先生の子供達が特別参加した。小学5年生の長女と、小学二年生の長男。二人共、父親である先生に似て落ち着きのあるいい子たちであった。

 長女の方が、算数でわからないところがあるというので、それを教えた。普段、数学など様々な教科で、誰かに質問されたときある程度は答えられるよう準備はしていた。しかし、高校生相手に話すのと、中学の数学の世界も知らない小学生に教えるのは大変な苦労であった。少数の絡んだ割り算の問題で、計算自体は(高校生の感覚からすれば)簡単だった。こんな問題である。

 2.5mで180gの針金Aと、1.5mで180gの針金Bがある。1mあたりどっちの方が重いか。

 答えはBである。それぞれ重さを長さで割れば、1mあたりの重さを導き出すことができる。だがこれは、そんな面倒くさい計算をしなくとも、それぞれを二倍して、

 5.0mで360g、3.0mで360gとなる。見ての通り、Bの方が重い。だが彼女が、これを書いて学校へ持っていけば、こんなやり方先生は話していないと言われ、やり直しを求められるだろう。何故なら、「割り算」の課題である。中学・高校数学を学んだことのある方が読者の中でいらっしゃれば、わり算が掛け算へ置き換わっていくから、そこまで割り算をしなくなる(無論必要ではあるが)ということがおわかりいただけると思う。

 しかし、こういった楽をしていく方法も大事ではないだろうか。

 試験では時間が決められている。その範囲内で、できるだけ多くの問題を解き、点数を獲得しなければならないのだ。一々馬鹿正直に解いていたら時間がない。

 そんなことを、教えようと思いはしたが、その力は否が応にも身につくだろうと思ってやめた。

 時間が無いのは、嫌なことだ。

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