第2話

結城梓の容姿は人目をひくものだった。元女優の母親から受け継いだ容姿は周りから注目されるのには十分だった。


亜麻色の髪に白い肌、キリッとした目、鼻筋の通った顔立ちは周りの女子はもちろん、大人たちの注目の的だった。母親の名前もあって幼少期はスカウトに来る人間も少なくなかったが、梓に一切興味がなかったため、ごく普通の子供として育った。



幼少期からそれはモテていた梓だが、男子と遊ぶことの方に興味があったため告白は全て断っていた。それが変わったのは中学2年の頃。


「梓くんのこと、ずっと前から好きだったの…」


告白してきたのは友人の幼馴染だった。陸上部所属で活発な性格の彼女は誰とでも分け隔てなく仲が良かった。目立つ容姿と口下手な性格から男子から敬遠されていた梓にも積極的に声をかけ、幼馴染や友人を紹介してくれた。クラスに馴染めるよう協力してくれた彼女に対し、友情か恋愛感情が分からないが、好意を抱いていたのな確かだった。


だから、彼女の告白を受け入れ、付き合うことになったのはごく自然なことだった。


騒がれるのが嫌だ、という彼女の願いで交際しているのとは周囲に隠していた。学校では普段の通り友人として接し、放課後や休日に二人で遊ぶ、ということがほとんどだった。陸上部の彼女は放課後や休日に部活があることが多く、遊ぶ時間はそんなに取れなかったが、それでも梓は楽しかった。


世間一般の中学生の男女交際がどのようなものか分からなかったが、陸上に力を入れ、大会も近かった彼女の邪魔をしたくなく、自分から遊びに誘ったり、会いたいと言ったことはほとんどなかった気がする。何かの雑誌で忙しい相手にむやみに連絡をするのは良くない、と見たことがあったためだ。何も打ち込めることがない自分と違い、陸上に打ち込んでいる彼女がまぶしく映っていた。だからこそ、邪魔をしたくなかったのだ。


付き合って2ヶ月ほどだった頃、彼女の顔に陰りが見え始めていたが、部活のことで何か悩んでいるのかと思い、何か悩んでるのか聞いたが、笑って誤魔化された。


彼女から別れようと言われたのはそれから二週間もたたない頃だった。



「梓くんは、私のこと本当は好きじゃないでしょ。友達に戻ったほうがいいと思う」


呼び出された彼女にそう言われた。


「本当は好きじゃないって、どういう意味?」


「そのまんまの意味。私の好きと梓くんの好き、は違うんだよ。梓くんの私への気持ちは友情だよ。梓くん昔、私が恩人だって言ってたけど、その気持ちと友情を恋愛感情と勘違いしてるだけだよ」


目を伏せながら、悲しそうな声で言った。

梓が彼女に抱いていた気持ちは恋愛感情ではなかったと言うのか。


「いつか本当に好きな人ができたら、梓くんにもわかると思う。二ヶ月間付き合ってくれてありがとう。本当に楽しかったよ」


それだけ言って彼女は去って言った。

彼女に言われた言葉がずっと頭の中で響いていた。




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