【第112話:真の目的】

 四階層に下りてからも、オレたちは順調に歩みを進めていた。


「行っけ~! 閃光!」


「喰らえ! 風の咆哮!」


「噛み砕け。雷牙」


 ユイナ、シンドウ、ササキの三人が、得意属性の第二位階魔法を放ち、文字通り現れる魔物を鎧袖一触殲滅していく。


 そして、運よくその魔法の猛攻を掻い潜った魔物も、


「どりゃぁ! どっせ~い!」


 メイシーが縦横無尽に振るう『魔球ドンナー』によって、その運も尽きて爆散させる。


 つまり何が言いたいかと言うと……。


「オレの出番がないな……」


 一度にかなりの数の魔物が現れる事もあったのだが、オレたちに近づく前に全て靄へと変わり霧散していくので、近接攻撃しかできないオレに出来る事は何もなかった。


 いや、魔晶石を拾うぐらいはしているが……。


「はははは。そう言えば、今いるメンバーで飛び道具ないのはトリスっちだけやな! まぁ最後に頼りになるのはトリスっちやし、雑魚はうちらに任せときぃ!」


 メイシーがそう言って慰めてくれるが、なんか複雑だ……。


 オレが魔剣から授かった記憶の知識・・の中には、斬撃を飛ばすような技もあるのだが、その技は追体験していないので繰り出す事が出来ない。

 ソラルの街でのあの激しい戦いの中、魔剣から流れ込んでくる記憶により、追体験のような体験をしたわけだが、あれから魔剣の特別な反応などは起こっていない。


 ただ……あの時流れ込んできた記憶。

 一人称で体験したため、どのような人物かはわからないが、この魔剣の元々の持ち主がいた事は確実だし、その人物がかなり凄腕剣士だったのは間違いない。

 これからの戦いの事を考えると、なんとか他の剣技も習得したいところだ。


 魔晶石を拾いながらそんな事を考えていると、シンドウに話しかけられた。


「何かメイシーさんや新垣さんの話を聞く限りだと、トリスがとてつもなく強いみたいだけど、実際のところどれぐらい強いのかな?」


「いや、オレなんか……」


 大したことないと言おうとしたのだが、その言葉はメイシーに遮られた。


「そやなぁ~? 本気で万全の状態でやりあったら、うちじゃ手に負えんなぁ。まぁ詳しくは見てのお楽しみっちゅうやつや!」


「へぇ~。メイシーさんって、僕の目から見ても、この世界の人の中では最強クラスの強さだと思うんだけど、それより強いのか~」


「なんや。鑑定眼っちゅうやつか? 乙女の秘密を勝手にのぞくとか無いわ~。ひくわ~」


「えっ!? いやっ、鑑定眼って言っても、別に変なデータとか見えないからな!?」


「進が慌てるのはレアだな。スマホがあれば動画で撮っておくのに」


「おい!? 蒼!?」


 スマホやドウガと言うのが何かわからないが、シンドウが慌てているのは珍しいな。

 何か危険なものなのだろうか?


「ちょ、ちょっと~。何か探知にひっかかったよ? 警戒しないと!」


 何気ない会話を遮るように発せられたユイナからの警告だったが、そこに同じ召喚者の二人が疑問の声をあげる。


「え? あれ? 僕の探知には何もひっかかってないよ? 碧は?」


「俺の探知にも何も映っていないな。見間違いじゃないのか?」


 ササキの疑いの言葉に、何気にユイナに視線が集まる。


「う……い、いや。でも、本当にボクの探知に映ってるよ?」


 若干たじろぎながらも、ユイナがそう言った時だった。


「あ! 今、確認した!」


「俺もだ。たった今、表示された」


 どういうことだ?

 確か探知や鑑定眼、アイテムボックスなどの技能は、召喚者に一律同じように与えられたとものだと聞いていたのだが、個々にその能力に違いがあるということだろうか。


「もしかして……力の分配が……」


「ユイナっち!」


「あ……いや、その……あれ、そう! あれだよ!」


 オレも何もフォローできずに黙ってしまったので人の事言えないが、ユイナ……それはないぞ……。


 しかし、これはどう取り繕うのが良いのかとオレも焦っていると、ササキが先に口を開いた。


「……そうか。新垣さんたちもその事実を既に掴んでいたのか」


「進……良いのか?」


「まぁ、新垣さんがやらかしてくれちゃったお陰で、向こうも結構深いこと知ってるのがわかったし、いいんじゃない?」


「あぅぅ……」


 ユイナが凹んでいるけど、今回は運よくお互い知っている情報だったようだ。

 しかし、聖王国を出たこの二人が知っているということは、他の召喚者にも既に知られているのかもしれない。


 もし、本当に知られてしまっているのなら、今まで以上にユイナを必死に狙ってくる可能性が高くなるな……。


「ササキ、シンドウ、答えたくないのなら無理強いはしないが、このレベルの情報って、聖王国の奴らは知っているのか? その……特に他の召喚者たちは?」


 オレのその問いに、一瞬視線を合わせて悩んだ様子を見せた二人だったが、とつとつと話し始めた。


「探知にかかっていた魔物もどっかいったみたいだし、今のうちに話しておくか」


「新垣はやはり無害そうだしな」


 無害と言われて、何故かちょっと嬉しそうなユイナは置いておくとして、その後語られた話はちょっと驚くものだった。


「実は僕たち二人は……いや、亡くなった子も含めて三人は、同じ学校の同級生なんだ」


「ちなみに、その中でも俺たち二人は幼馴染だ」


「え? 召喚者ってみんなバラバラの所から召喚されたって聞いてたけど?」


「あぁ、そうなんだが偶然か何かか、僕たち三人は同じ学校の同じクラスから召喚されたんだ」


「それに何の意味があったのかなんてわからないが、俺と進は聖王国を疑っていたし、いざという時に二人で協力できるように素性も実力も隠して行動する事にしていたんだ」


「まぁ鑑定眼で見たらわかる通り、隠さなくても他の奴らより少し劣っているのは事実なんだけどね。それはともかく、僕たちは聖王国が怪しいと踏んで、まずは過去の勇者召喚の記録を調べていたんだ」


 劣っていると言っているが、ユイナも含め、それって本当はただ後衛よりってだけなのじゃないかと思っているのだが、今は話を最後まで聞こう。


「ところが、奴らが先に動いた」


「僕たちがいない隙に彼女は殺され、力を奪われたんだ」


 奪われたという言い方をしているという事は、やはり力が流れ込むのを知っているのだな……。


「ちなみに、勇者召喚の儀式魔法と称しているが、実際のところの真の目的はべつのところにあるって知っているかな?」


「え? ボクが見つけた手記にはそう言う事は書いてなかったよ。勇者を呼び出すことが目的なんじゃないの? 魔族とかの話が隠されているだけじゃないの?」


 一瞬メイシーがユイナを止めようとしていたが、向こうの持っている情報はオレたちの知らない事も含まれていそうだしと、ここは好きにさせることにしたようだ。


「手記? それは知らないけど、僕たちが見つけたのは隠蔽された聖王国の資料だね」


「隠蔽された資料から得た様々な情報から判断すると、召喚の真の目的は、魔神や魔族の転生先をコントロールするのが目的なんじゃないかと俺たちは思っている」


 ササキとシンドウの二人から語られたその話は、勇者召喚の儀式魔法の真の目的が、実際には別の所にあるという思ってもみなかった内容だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る