【第111話:攻略目指して】

「簡単な話や。この迷宮を……攻略すればええんや」


 メイシーが呟いた言葉に、ユイナが息を飲む音が聞こえた。


 でも、ユイナ以外の者たちは皆その事に気付いていたようで、ユイナ一人が「え? え?」と、一人で慌てていたりするのだが……。


「まぁ、そうなるだろうね~」


「仕方ないな」


「そうだな。オレもそれしかないかと思っていた」


 迷宮の最深部に辿り着くと、他の場所に飛ばされ、そこで最後の戦いを行うことになるのだが、見事勝利を収めれば、元いた場所ではなく、その後は地上に戻される。


 さすがに最後の戦いに勝ち、見事迷宮を攻略すれば、今まで通りに地上に転移されるはず……と信じたい。


「じゃぁ決定やな! うちらの元々の目的は攻略! つまり、うちらとしては一石二鳥ってわけや!」


 理解していないユイナに簡単に説明したあと、メイシーはそう締めくくった。


 本当なら迷宮攻略はもう少し時間をかけて行う予定だったのだが、こうなっては仕方ないだろう。

 幸いなことに、ユイナのアイテムボックスには既に水も食料も用意してあるし、ギルドで地図も購入済みだ。

 決して無謀な挑戦とはならないだろう。


「二人が問題ないようなら、これからは脱出じゃなくて攻略するって方針で行くが構わないか?」


「あぁ、僕たちも問題ないよ」


「こういう事態だ。仕方ない」


「じゃぁ、方針決定やな!」


 こうして、これからのオレたちの目的が、迷宮脱出から迷宮攻略へと切り替わったのだった。


「あ、あれれ~? ボクの意見は……?」


 ◆


 迷宮を攻略する事になったオレたちだが、下層に降りる階段ではなく、最初に出会った場所へと向かっていた。


 つまり、変異種の蟻があけた縦穴から四階層へと下りる事にしたのだ。

 これには理由があって……。


「まさか、下に降りる階段も全部消え去ってるなんてね……」


 どういった理由なのか、またどういった仕組みなのかはわからないが、シンドウとササキの話を信じるならば、ここより下層は階段はほぼ残っていないと思った方が良さそうだ。


 途中、変異種などではない普通の迷宮の魔物には出会ったが、蟻の魔物と出会う事はなく、問題なく目的の場所へと到着した。

 まぁこのメンバーだと、普通の迷宮の魔物など早い者勝ちで蹴散らしてしまうので、そうそう問題など起きる事はない。


 ただ、こういう状況なので、魔物ももしかすると階層にあわない強さのものが出てくるかもしれないし、何よりも、聖王国の奴らが何か仕掛けてくるかもしれないので、油断も出来なかった。


「しっかし、これ、うちらじゃなかったら閉じ込められて食料尽きて、エライことになってたなぁ」


「僕たちのアイテムボックスにはかなりの量の料理を入れてあるし、もしそっちの食料が足りなくなったらお安くしておくよ?」


「なんや。金取るんかいな。ちゃっかりしてるなぁ」


「僕たちはまだ中級冒険者だからね。稼げる時に稼いでおかないと。あ、この串焼き美味しいなぁ」


「碧、ほどほどにしておけよ」


「わかってるって、進。でも、料理かなり買い溜めしてるし、串焼きの一本や二本売っても問題ないって」


 なんかユイナと違って、シンドウは商魂逞しいな……。


「それにしても、ユイナもそうだが、シンドウやササキも大量の料理をアイテムボックスに入れてあるんだな」


「そりゃぁ、こんな世界、日々の楽しみなんて料理ぐらいだしね~。それに、僕たちは余りお金に余裕はないから、高ランク冒険者様が高く買ってくれるっていうなら喜んで売るさ~」


「なんや、お安くしてくれるんとちゃうんかいな?」


「あ、つい心の声が」


 穴を使って四階層に降りる前に軽く食事をする事になったのだが、こんな何気ない会話をしながらも、ユイナにしてもシンドウやササキにしても、探知と言う召喚者特有の技能で辺りを警戒してくれている。


 探知は完璧じゃないというから油断は出来ないが、それでも頼もしい限りだ。


 しかし、今まで出会った召喚者が召喚者だったから二人の事もかなり警戒していたのだが、普通に話も通じるし、こうしていると、この二人が同じ召喚者の一人を襲撃したとは思えないな……。


 だけど、襲撃したというのは本当らしいし、敵対している奴らには容赦はしないというのも事実で、既に聖王国で何人もその手にかけているそうだ。


 ただ、信用も信頼も出来ないが、お互いに利益がある今の状況なら、当面は大丈夫と思えた。


「なになに? トリスはまだ僕たちの事を疑っているのかい?」


 二人の事を色々と考えながら串焼きを頬張っていると、まるで心の中を見透かしたようにシンドウに話を振られ、思わず咳き込んでしまった。


 あ、串焼きは勿論オレも買わせてもらった。


「い、いや。そう言う訳じゃないんだが……」


「ははは。隠さなくてもいいよ。だって、実際まだ会ったばかりだしね~。すっかり安心しきっている新垣さんの方がおかしいだけだから」


 突然名前を出されたユイナが、驚いて串焼きで喉を詰まらせそうになったので、手に持ってた水筒を渡してやる。


「えっ!? けほっけほっ……んぐ……ぷはぁ~……あ、ありがと」


 うん。もちろんユイナも串焼きを買っていた。


「新垣、追放されて本当によく生き残れたな」


「佐々木くん、酷い!?」


 しみじみと呟くササキだが、本音を言えば、オレもちょっとそう思ったのは内緒だ。


「トリスくん……なんかトリスくん、失礼なこと考えてない?」


「いや、そんな事は……」


「あぁぁ! やっぱり考えてるぅ!!」


 う……オレの嘘を吐く時の癖、なんなんだろうか……。


 それから軽く食事をしながら、暫く休憩をし、オレたちは縦穴に飛び込むことにした。


 ◆


「きゃぁぁ~!!」


 最後に残ったオレとユイナ・・・・・・が飛び降り、オレたちは四階層へと降り立った。


 そう。オレたち・・・・だ。


「とと……ほら。もう着いたぞ」


 実はユイナが怖くて飛び降りる事が出来ないというので、結局オレがユイナをお姫様抱っこして飛び降りる事になったのだ。


 しかし、全属性耐性向上の魔法をかけず、そのまま飛び降りたのでふらついてしまった。と言うか、足が痺れて痛い……。


 実はシンドウとササキと出会ってから、オレの能力がバレてしまうのは出来るだけ避けようという事になったので、オレはまだ一度もブーストしていない。

 さすがに普通の状態で、軽いとはいえ女の子一人をお姫様抱っこして数メートルはある高さを飛び降りたので、衝撃を完全に吸収する事が出来なかった。


「トリスくん、ご、ごめんね」


 顔を真っ赤にしながら、礼を言うユイナ。


 すると、その様子を見ていたシンドウが、面白いものを見たといった表情で話しかけてきた。


「なんだ~? 新垣さんとトリスって、そういう関係なのかぁ~」


「ななななななななな!? 何を言ってるの!? ぼぼぼボクたちそういう関係じゃないからね!!」


「なんだ? そういう関係って?」


「「「「え?」」」」


 な、なんだ? 皆の視線が凄く痛いぞ……。


「新垣さん……頑張って」


 最後にササキがユイナの肩に手を置き、何か言ったような気がしたのだが、結局何を言ったのかは最後まで教えて貰えなかった。

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