【第110話:情報】
「それじゃぁさ。先に情報交換をしておこうか?」
シンドウのその言葉で、お互いの持っている情報を先に交換する事になった。
こちらの情報としては、先のゴブリンの変異種の件、ソラルの街の魔物の軍勢襲撃の件、この迷宮都市に来る時に襲撃を受けたことまでなら話せるか。
問題は手記に関する事、そして、サイゴウ、ユウマが魔族になった事や、ヤシロの暗躍などについてだろうか。
シンドウたちが魔族化してしまう危険性についてや、魔神が生まれることを知っている可能性は低いはずだ。
まして、死ぬと他の召喚者に力が流れていく事などを知れば、下手をすると争いになる可能性も充分ありえる。
しかし、魔族化する危険やヤシロの暗躍を教える事で、二人の魔族化を防いだり、場合によっては共同戦線を張る事も可能かもしれない。
いったい、どこまで話せば良い?
まずは話せる範囲で話して、それから決めるか。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか? まずは問題ないレベルの情報交換をして、お互い質問をいくつかしながらって事にしないか?」
二人がどこまでの情報を掴んでいるのか?
そして、どういうつもりでこの迷宮に来たのか?
その理由によっても与えてよい情報のレベルが変わってくる。
「ん~? まぁ仕方ないか。どうやら、
やはり二人も何か重要な情報を持っているのか。
オレはこういう腹の探り合いは苦手なのだけどな……。
でも、かと言ってユイナに任せれば、洗いざらい情報引き出されそうだし、メイシーよりオレの方がユイナと何度も話をしていて、手記や召喚者、ユイナの元いた世界についてはずっと詳しい。
考えると胃が痛くなってくるが、オレが頑張って交渉するべきだろう。
「僕たち同様、か。まぁいい。まずは誠意を見せるって事で、オレの方から話そう」
そう言ってオレは、ライアーノの街で起こったゴブリンの変異種討伐の件、サイゴウが襲ってきて返り討ちにした件を、魔族化した部分を伏せて話した。
「へぇ~、もう西郷はいないと……。新垣さん
「え? ボクが?」
「天然でどこか抜けているのは変わらないようだがな」
「うっ……佐々木くん、ひどい……」
「あははは。ユイナっちは、その天然で純粋なところが良いんやから、気にせんでええで!」
ユイナが一人で上げて落とされているが、オレもメイシーと同意見で、ユイナはそのままでいて欲しいと思う……って、そうじゃなくて、話を元に戻そう。
「まぁ、ユイナも色々経験したからな。それで、次はそっちで良いか?」
「あぁ、そうだね。まず、この迷宮都市に来ている勇者は本郷と市村の二人だ。だけど他にも聖王国の連中が、二人をサポートするために何人も入り込んでいるよ。あと、僕たちの掴んだ情報だと、矢代と上城もこの国に入り込んでいる可能性が高い」
「カミシロと言うのはユウマのことだったよな?」
毎回召喚者たちの名前を聞いて、そのまま戦いに突入しているので、この国とは名前と苗字の順番が異なるのもあって、呼び方が曖昧になってしまっている。
だから念のために、こっそりとユイナに尋ねた。
「そうだよ。悠馬くんのことだよ……」
「ん? その様子だと、そっちがぶつかって、倒したか?」
声は聞こえていなかったと思うが、ユイナの沈んだ表情で見抜かれてしまったようだ。
まぁこの辺りは話すつもりだったので構わないが、今は、あまりユイナに話を振るのはやめておこう……。
「あぁ、実はソラルの街でな……」
そしてオレは、ソラルの街で起こった事を、同じく魔族化したことなどを伏せつつ話していった。
◆
「矢代か……ちょっと、いや、完全に僕たちの予想を超える強さだね。それにそこまで巨大な魔物がいるのか……碧はどう思う?」
「少なくとも矢代がいる場面では、正面からぶつかるのは避けるべきだと思う」
やはり二人も魔物の軍勢を操っている可能性が高いという事や、転移魔法のような能力を持っている事などは完全に予想外だったようだ。
「まぁ、魔物を際限なくぶつけられたら僕たちでも簡単に殺されちゃうだろうし、あいつは聖王国に居た時から、なんだか気味が悪かったから避けたいよね」
「それに……ここの蟻も矢代が操っている可能性がある。もしかすると亡くなった
矢代が変異種を創り出せるだろうと言いう事は伝えていなかったのだが、ここまで教えればやはりその答えに行きつくか。
「実は、オレたちもヤシロが変異種を創り出せるのではないかと思っている」
そして、そこからもいくつかお互いの推測や情報を交換し、ひとまずは情報交換を終える事になった。
オレたちの方も、それなりに有益な情報を得ることが出来たが、二人の詳しい目的はまだ教えて貰えなかった。
まぁまだ出会ったばかりだ。これから徐々に聞き出していけば良いだろう。
「じゃぁ、情報交換は一旦これで終わるとして、次はこの迷宮をどうやって脱出するかって話か」
「とりあえず僕たちは、ここで二日ほど色々調べてわかった事があるんだけど……良いかな?」
この迷宮に関しては、オレたちより詳しいのは確実なので、オレは素直に話の続きを促した。
「まず、元々あった階段は全滅。すべて跡形もなく消え去っていたよ」
「ん~……迷宮で、こんな短期間に構造が変わることなんて、うちも初めてやなぁ」
メイシーの長い冒険者生活で聞いた事すらないというのは、かなりの異常事態だというのは間違いなさそうだ。
「なんや? トリスっち、今、しっつれいな事、考えてなかったやろなぁ?」
「へっ? い、いや、そんな事、か、考えていないぞ?」
ユイナと言い、メイシーと言い、女性と言うのは変な所で鋭い……。
「まぁええわ。それで、全滅ちゅうことは、この階だけやなくて、下の階もおんなじ状況っちゅうことか?」
「そうだね。蟻の縦穴を利用してこの階まではあがってこれたけど、元々あった階段は全部なくなってたし、かわりに他の階段が現れたりもしてなかったね」
「じゃぁボクたちは、蟻がこの上の階に向かって穴を掘ってくれるのを待つのかな?」
蟻の魔物の変異種が、上の階へと縦穴を掘ってくれるのなら、ユイナの言う通りそれが脱出する可能性が一番高そうなのだが……。
「僕たちもそう思ってたんだけどね~。どうやら蟻の変異種の行動範囲はここまでみたいなんだよ」
「少なくともこの二日間はそうだった」
蟻の変異種が現れだしたのはこの階かららしく、下の階に行けば行くほど縦穴をたくさん見かけるようになるらしい。
「そ、そんな……もしかして手詰まり?」
「落ち着き、ユイナっち。とりあえず一個だけ、確実に外に出れる方法はわかってるから安心しぃ」
「え? メイシーさん、この状況の迷宮から出る方法を知ってるんですか!?」
その方法は、実はオレも気付いていた。
ただ、もう少し迷宮に慣れ、経験を積んでからと思っていたのだが、どうもそうも言っていられないようだ。
「簡単な話や。この迷宮を……攻略すればええんや」
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