【第113話:考察】

 ササキとシンドウの二人から語られる話は、中々に衝撃的な内容だった。


「この世界の魔神や魔族は完全に倒し切る事が難しいらしくてな。何度も転生するらしいんだ」


「はた迷惑な話だが、この世界のどこに転生するのかわからないより、自分たちの手の届くところ、つまり召喚者に転生させた方が良いという判断なんじゃないかとな」


「何度も転生って、そんな……じゃぁ、ボクたちが何とか倒した魔族も転生するの……? しかも、召喚者を生贄みたいに……」


「ユイナ、まずは話を最後まで聞いてみよう」


 突然飛び出した、魔族は倒し切る事ができず、また転生するという話と、まるで召喚者が生贄のように扱われているのではないかと言う話にショックを受けていたが、今は二人に話を先に進めて貰おう。


「新垣、悲観する事はないぞ。恐らくだがそんな簡単にすぐに転生することはできないだろうから、無意味ではないはずだ」


「そうだね。碧の言う通り、今を生きる僕たちにとっては、魔族を倒すのは凄く重要なことだと思うよ」


「二人とも、ありがと……」


「えっと、どこまで話したかな。そうだ。さっきは手の届くところに狙って転生させているんじゃないかって言ったが、実はもう一つの可能性があってね」


「なんや? その転生させているのが狙ってやったのか、どうかってかなり重要やで?」


「すまないが、これは俺たちが集めた情報から推測した話だから、最悪どちらも違う可能性がある。そのつもりで聞いてくれ」


「わかったよ。それでもオレは聞きたい。話してくれ」


 もしかするとオレたちよりも多くの情報を手に入れてそうだし、聞く価値は十分あるだろう。


「わかったよ。まず、勇者召喚の魔法なんだけど、元々は純粋に異世界から勇者を召喚するだけの魔法だったのは確実みたいだ」


「それを、勇者召喚の魔法の存在を知った魔神が逆に利用して、勇者を確実に殺すために、強引に召喚魔法に介入して転生させているんじゃないかって可能性がある」


 話を聞く限り、どちらが本当の話でもおかしくはないと感じた。

 真実がどうなのかは、今は知るすべはないが、そういう可能性があるとした上で行動することは意味があるだろう。


「まぁ信じるかどうかは任せるけど、僕らの考察はそんな感じだね。あと、たぶん誤解しているんじゃないかなって思ってるんだけど……」


「俺たちが召喚者たちを闇討ちして回っていたのは、本当は敵討ちなんかじゃない」


 敵討ちじゃないという話だけを聞かされていたなら、疑ったかもしれないが、この話の流れで言われると、信憑性があがる。


「もしかして、今話したような情報を、結構早い段階で手に入れていたのか?」


「まぁそんな感じだね。僕ら、彼女とは顔見知り程度で、他の召喚者と比べて特別仲が良かったわけではないんだ。だから敵討ちのためだけなら、あんな危険な目を犯すようなことはしなかったと思う。もちろん、同郷ってことで思う所はあったけどね」


「それで、これが一番大事なことなんだが……」


 ササキとシンドウの二人は視線を交わしてから無言で頷くと、誰もいない前方に手のひらを向け……、


「「閃光」」


 ユイナの得意な光魔法『閃光』を撃ちだしてみせた。


「わわっ!? ボクしか使えないと思ってたのに、二人とも『閃光』が使えるんだね!」


 ユイナの『閃光』と比べると、放った光の矢の数もその威力も格段に低いが、それでもユイナ以外の召喚者で光魔法を使ったのは二人が初めてだ。


「ユイナっち、閃光が使えるってことは、どういうことかわかってるか~?」


「え? メイシーさん、どういうこと?」


「ユイナ。たぶん、光魔法が使えるってことじゃないか?」


 オレが言ったその言葉に、メイシーではなく、ササキとシンドウの二人が話を引き継いだ。


「そう言う事だね。これは僕たちの予想なんだけど、召喚者は光属性と闇属性、どちらの魔法が使えるかで、勇者サイドか魔族サイドかにわかれるんじゃないかと思ってる」


「聖王国にいるとき、俺たちは皆、光魔法の練習を何度もさせられていた」


「その中で光魔法が使えたのは、殺された彼女と僕たち、それから新垣さんのあわせて四人……と、行方不明の矢代だ」


 今までササキとシンドウの二人の話を聞いて、オレもその予測は間違っていないんじゃないかと思っていた。


 だけど……ヤシロが勇者サイド?


「ありえない……ヤシロが魔神だと言われたのなら、まだ納得できたかもしれないが……」


「そやなぁ……さすがにうちも、あのヤシロってのが勇者側の人間やとは思いたくないなぁ」


 ユイナも口にこそ出していないが、同じ気持ちなのだろう。

 ちょっと複雑そうな顔をしていた。


「あれ? 僕たちは王城を出てから矢代と接触していないから、わからないんだけど、あいつ……何かやらかしてる?」


「出来れば俺たちにも、矢代が勇者サイドじゃないという根拠を聞かせてくれないか?」


 オレは話してよいかとメイシーとユイナに確認し、二人の了承を貰ってから、ソラルの街での出来事を掻い摘んで話して聞かせた。


「そうか……新垣さんたちは、僕たちの想像以上の凄い戦いを切り抜けてきていたんだね。そして、たしかにその話を聞く限りは、矢代が勇者側の人間だとは思えないな」


「ユイナ、聖王国でヤシロは、本当に光魔法を使っていたのか?」


「えっと……ごめんなさい。ボク、あまり他の人と親しくなかったから、覚えてない……うぅ……」


 申し訳なさそうに話すユイナだけど、そこまで気にしなくて良いと思う。


「え、えっと、ユイナは前に言ってたじゃないか、落ちこぼれだったから一人で色々練習させられていたって。自由時間は書庫に籠ってたとも言っていたし、知らなくて当然じゃないか?」


「あぅぅ……」


 あれ? フォローしたつもりだったのだが、さらに小さくなってしまった……。


「トリスっち……」


「あ、いや、ちょっと聞いてみただけだから、知らなくても当然だと思っていたし、その……」


 なんかメイシーに呆れられてしまった……。


「僕の言葉じゃ信用が足りないかもしれないけど、上手くはなかったけど、確かに矢代は光属性の魔法を使っていたよ」


 まぁここまで腹を割って話をしてくれているんだ。

 シンドウがこんな嘘をつくことはないだろうとは思っている。


「しかし、矢代の行動のせいで、僕たちはまた一から考えないといけなくなるね」


 その後も、戦闘を挟みながらも、移動時間を使って話を続けた。

 戦力が圧倒的なので、油断さえしなければ、話をしながら移動してもまったく問題はなかった。


 相変わらず、オレの出番はほとんどなかったが……。


「ねぇ、トリスくん」


 弱い魔物の群れを蹴散らしたあと、ユイナが不意に話しかけてきた。


「ん? どうしたんだ?」


「ボク、ちょっと思ったんだけど、一番強い者が魔人になるって話あったじゃない? 覚えてる?」


 それはユイナが聖王国に居た時に偶然見つけた手記に書かれていた内容だ。


「あぁ、覚えているが、それがどうしたんだ?」


「あの手記を書いたのってね。書かれている内容やその書き方から、たぶんだけど勇者サイドの人間なんじゃないかと思うの」


 確かに、オレもそんな印象は受けるが、急にどうしたのだろう?


「それならさ。魔族側の真実とか、裏の事情とかはわからない人が書いたってことにならない?」


「あぁ~、そうなる、かな?」


「手記にはさ、魔族の中で一番強い者が魔神になるって書いてあったけど、本当は魔神って最初から誰かに転生しているって考える方が自然じゃないかな?」


 シンドウたちの話を信じるならば、転生して召喚に介入してきた可能性もあると言っていた。

 その通りだとするならば、魔神は魔神として転生するだろうし、魔族は魔族として転生するんじゃないかって事か。


「うん。そうだな。ユイナの言う通りかもしれない。転生してきたのなら、一番強い者が後から魔神になるんじゃなくて、最初から魔神は魔神で……だからそいつが単に一番強いって方が自然か」


 魔神がしているのか、聖王国側が狙ってやっているのかわからないが、本当に魔族や魔神が召喚時に介入して転生してきているのなら、その時点で魔神だと決まっているはずだ。


 そんな考察をしていると、メイシーも近づいてきた。


「ユイナっち、意外とこういう考察は鋭いなぁ」


 今までにもユイナと手記について何度も話してきたが、オレも意外とユイナはこういう時、鋭いと思う。


「意外とって言われるのはちょっと心外だけど……まぁいいや。それでね。ボクたちは何人か魔族側の人と戦ってきたわけだけど、矢代くんって別格だったじゃない?」


 なるほど……ユイナはこう言いたいわけか。


「つまり、ヤシロが魔神なんじゃないかと」

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