【第107話:違和感と異常】
キラーアントナイトの群れを倒したオレたちは、魔晶石を拾うと、そのまま第三階層の奥にあるという第四階層へと続く階段に向けて歩き始めた。
今日は第四階層には降りない予定なのだが、明日以降の本格的な泊まり込みの探索に向けて、その階段の位置を確認しておくためであり、今日の最終目標地点だ。
第三階層での探索も特に問題らしい問題は起こらず、その後もいくつかの魔物の群れを倒しながら順調に進んでいたのだが、そこで徐々に違和感が確信へと変わる。
まず一つは、蟻系の魔物が多すぎるのだ。
第一階層で冒険者の二人を助けたあの日、実は冒険者ギルドに寄った際に確認したのだが、この迷宮ではあまり蟻の魔物は多くないという話だった。
それなのに、今日この第三階層に辿り着くまでに戦った魔物の半数近くが蟻の魔物だった。
ただ、これは迷宮では特定の魔物が急に大量に発生することがあるそうなので、これだけで何か異常だというわけではないそうだ。
しかし、魔物を操る者の存在を知っているオレとしては、やはり色々と考えてしまう。
だけど、本当に気になるのは二つ目の違和感の方だ。
それは、他の冒険者と全く遭遇していないということだ。
実は第三階層に入ってすぐに、一度メイシーに尋ねてみているのだが、その時は時間的に今から潜るパーティーの方が多いだろうから、遭遇しにくいのではないかという話だった。
下層に降りる階段は複数あって、冒険者パーティーはそのどれかを選んで降りていくし、戻ってくるパーティー以外とは遭遇もしにくい。
だけど、さっき昼の休憩も取り、今はもう午後に差し掛かる時間だ。
さすがに異常に思え、もう一度尋ねてみることにした。
「メイシー……他の冒険者と全然出会わないのは、やっぱりおかしくないか?」
「ん~そやなぁ、さすがにちょっとここまで誰とも会わへんのはおかしいかもしれんなぁ……」
迷宮の第一階層では、ユイナの探知の技能の力も借りて、他の冒険者と鉢合わせないようにしていた。
人の目の無い迷宮で、余計なトラブルを防ぐためにそうしたのだ。
オレ達のパーティーに勝てるような冒険者パーティーは、王国にはほとんどいないだろうが、何せ見た目は成人したてのオレに、冒険者ぽくない、普通に美少女のユイナと、種族のせいで幼く見えるメイシーの三人パーティーなのだ。
絶対強そうには見えないだろう……。
まぁ、今はそれは良い。
そういう理由から、第一階層ではルートは選び放題だし、避けるように移動していたのだが、第二階層からは一つではないとは言え、皆階段に向けて移動するのだ。
この迷宮に挑戦している冒険者の数を考えると、少なくとも二、三回は遭遇していそうなものなのだが、ここまで他の人の気配すら誰も感じ取っていなかった。
「そ、そう言えば、探知にも誰もひっかからないもんね……迷宮に何か異常が起きてるのかな? ちょっとボクも不安になってきたな……」
「まぁ、トリスっちやユイナっちの気持ちもわかるけど、不安を感じるなら、より注意深く行動して警戒レベルをあげて進むだけや。うちはこの程度の階層なら、迷宮の仕掛けや魔物より、こないだの召喚者の二人や聖王国の人間らが仕掛けてこうへんかの方が心配やなぁ。とにかく、もう少しで第四階層へと続く階段に着くはずやし、そこで軽く休憩とったら、予定通り折り返して、帰り道も油断せんといくで~」
「そうだな。この状況がたまたまなのか、迷宮に何か異常が起きているのか、人為的なものなのかわからないが、やれることを精一杯やろう」
「わ、わかったよ! メイシーさん、トリスくん、頑張ろうね!」
だが……この後、第四階層へと続く階段の前に辿り着く事は出来なかった。
◆
オレやユイナだけでなく、メイシーですらも、少し混乱していた。
ギルドで購入した迷宮の地図は、もう何度も確認した。
「間違ってないはずだ……」
「そやな……ここで間違いないはずや」
オレとメイシーは、これで三度目となる確認作業を終え、お互いに間違っていないことをもう一度確認しあった。
「うぅ……じゃぁ、どうして
そう。階段が無いのだ……。
ずっと同じような石壁だが、第三階層はそこまで複雑ではない。
間違いなく、ここはオレ達が目指していた第四階層へと続く階段のあるはずの場所だった。
しかし、ここは何もないただの部屋だ。
例の削る事すら出来ない石壁が綺麗に敷き詰められ、壁や天井にも階段があった痕跡など全くない。
地図だけでなく、部屋も隈なく調べてみたが、何もおかしな所は見つけられなかった。
「トリスっち、どうする? とりあえず道は地図通りみたいやし、ちょっと休憩とったら、他の四階層への階段を探してみるか~?」
「……いや、無理をする必要はない。今日はここまでにして戻ろう」
迷宮は拡大する事はあるらしいが、その構造が変更されると言うのは聞いた事が無い。これは明らかに異常事態だ。
ここは無理をして
「そ、そうだね! うん! ボクも賛成! そうしよう!」
「ほほ~ん……ここでうちの意見に乗っかって探索するつもりやったら、止めるつもりやったんやけど、上出来や!」
う……メイシーに試されていたのか……。
気にならないと言えば嘘になるが、嫌な感じがまだ収まっていない。
取り越し苦労なら良かったんだが、下手に違和感が当たっていただけに、尚更無理をすべきではない。
「じゃぁ、四半刻ほど休憩したら、来た道を丁寧に戻っていく事にしよう」
「あ、あの……どうせ休憩するなら、少しだけここから離れて休憩にしない?」
「あぁ、そうか。確かに階段が消失するという異常事態が起こっている近くで休憩するのも落ち着かないか」
こうしてオレ達は、少し道を戻ってから、あらためて休憩をとったのだった。
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あとがき
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ここのところ更新が空いてしまっており申し訳ありません<(_ _")>
書籍版だけでなく、Web版も出来るだけ更新できるように頑張りますので、どうぞこれからもご愛読をお願いします!
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