【第101話:油断できない相手】
迷宮都市ガイアスの冒険者ギルドに入ると、左奥と、右手前に窓口がおかれていた。
よく見れば案内板のようなものが見え、どうやら右手前の窓口が迷宮探査登録をするための窓口のようだ。
「さぁ、さっさと済ませよか~」
そして、メイシーのその声に先導されて、窓口に向かおうとした時だった。
探査登録の窓口での手続きを終えたと思われる二人の男が振り返ると、こちらに目を向け、一瞬驚いたような表情を浮かべたあとに声をかけて来た。
「あれれ!? 新垣さん? まさかこんな所で会うとはね~」
かなり上質だとわかる装備に身を包み、気の良さそうな軽い笑みを浮かべているが、一目でかなりの実力者だというのが感じ取れた。
「あいつら追ってここまで来たが、逃げてるはずの新垣がなんでこんな所にいる?」
一人目の男と違い、もう一人の眼光鋭い男の声には、少し警戒の色が見られた。
二人は共に黒髪で、『ユイナ』ではなく、苗字である『
オレはそっとユイナと二人の男の間に割って入ると、何か手を出されても防げるように一気に最大限まで警戒をあげ、ユイナに尋ねてみた。
「ユイナ……こいつらは……召喚者だな?」
その様子に気付いたのだろう。
気付けばいつの間にかメイシーも魔球ドンナーを取り出し、いつでも動けるように態勢を整えていた。この辺りの行動はさすがといった所だろうか。
「ま、待って、トリスくん。召喚者ではあるんだけど、敵ではない……かな」
「ん? 召喚者なのに敵ではないって事は……」
「うん。ボクと一緒に聖王国を追い出された二人だよ」
なるほど。でも、確かに直接的に対立している相手ではないかもしれないが、かといって警戒を解いて良い相手でもなさそうだ。
「ふ~ん……そちらは今のパーティーメンバーってところかな? 僕は『
シンドウと名乗った男は本当に敵意の無い様子で、そう言ってお道化てみせると、オレに握手を求めてきた。
一瞬、何かあるのかと警戒したが、ユイナも警戒こそすれ、そこまで怯えるような様子も見せていないので、オレも手を出し握手を交わした。
「……そうか。オレはユイナのパーティーメンバーのトリスだ。そして、後ろの女性がメイシー。敵対するつもりが無いのはこちらとしてもありがたいが、しかし、どうしてわざわざこの国の迷宮に?」
聖王国にも迷宮はあるのに、わざわざここに来たと言うことは、何かこの二人は情報を掴んでいるのではないかと思い、少しかまをかけるように尋ねてみた。
「あれれ?
「えぇ!? 本田くんたちが、直接ここに!?」
勇者が直接乗り込んでくるという、その可能性も話してはいたのだが、それでもその可能性は低いと思っていた。
勇者は隣国との間に結ばれた『勇者協定』があるため、どの国、どの街にも自由に出入りすることができる。
だから全く無い話ではないのだろうが、度重なる暗躍を行っていたこのエインハイト王国に直接乗り込んでくる可能性は低いとふんでいたので、正直、かなり予想外だ。
「おい、進……喋りすぎだぞ」
「はははは。まぁいいじゃん、敵って訳でもないし、新垣さん何気に対立してそうだしね」
「……それでも、あまり情報を漏らすな」
「はいはい。悪かったって。じゃぁ、碧もこう言っている事だし、僕たちはそろそろ行くとするよ。新垣さんたちもせいぜい気をつけてね」
「う、うん。二人とも、き、気をつけて」
こうして召喚者の二人は、そのままオレたちとすれ違うと、出口に向かって歩いて行った。
ただシンドウの方が、出口付近でこちらを振り返ると、何かを思い出したようにほくそ笑み、
「あ、そうそう! 追手の件、無事で良かったよ~」
と言って、手を振り、最後は大きく笑いながら出ていった。
「ん? 追手の件……あぁぁぁ!?」
「ん? ユイナっちどしたん? 追手の件ってなんや?」
メイシーが警戒を解き、魔球を魔法鞄に収納しながら尋ねる。
「ぼ、ボクがまだ聖王国の街にいた時、あの二人に危うく追手を押し付けられそうになったんだよ!」
話を聞いてみると、聖王国の追手から逃げつつ、この国に脱出しようとしていたとき、最後に立ち寄った街で仲間にならないかと誘われ、断るとそのまま追手の騎士を押し付けられそうになったそうだ。
結局その場は仮面を被ってなんとか逃げ延びたという話だったが……。
「あはははっ。ユイナっちなら簡単に騙せそうやしな! でも、それやとトリスっちと出会えたのは、あの二人のお陰でもあるっちゅうことになるんとちゃうか?」
「ぁぅ……でもでも、あの時、私すっごい焦ったんだから!?」
「まぁ敵対しないのならこちらから仕掛ける必要もないと思うが、信用して良いタイプでは無さそうだな。今後も警戒は解かないようにしよう」
正直、何を考えているのか読めないタイプに感じたし、それにここへ聖王国の勇者たちが向かっているのだとしたら、ここで何か仕掛けるつもりなのは間違いないだろう。
そうなると、巻き込まれる可能性も低くはないはずだ……。
迷宮探索できるという事でちょっと浮かれていたが、どうやら思っていたよりも厄介な状況になりつつあるようだ。
そんな風に少し考え込んでいると、メイシーがパンパンと手を叩き、明るい声で場を仕切り直した。
「はいはい! まぁ色々考えなあかんことも増えてもうたけど、まずは探査登録を済ませてまおか~」
「う、うん! そうだね!」
オレたちは迷宮探索に不安を感じながらも、その後、特に何事も無く、探査登録を終えて冒険者ギルドを後にしたのだった。
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