【第100話:迷宮都市ガイアス】

 黒装束の襲撃からおよそ六刻。

 あれから襲われる事も魔物と出会う事もなく順調に進み、その日の夕刻には無事に『迷宮都市ガイアス』が間近に見える位置まで到着した。


『迷宮都市ガイアス』


 迷宮都市という名からもわかる通り、そこには、このエインハイト王国よりも遥かに古くから迷宮が存在していた。

 そのため、この迷宮がいつ頃できたのか? どういう理由で生まれたのか?

 何一つわかっていない。

 これは世界に七つあると言われている迷宮全てに共通することで、迷宮の起源に関しては未だに謎が多く、確かな事はあまりわかっていない。


 ただ、この『ガイアス』という街が出来た理由はわかっている。

 それは……魔物を封じ込めるため。


 何代か前のエインハイト王国の国王が、迷宮周辺の魔物の被害が深刻化した事を受け、この討伐を命じて遠征隊が組織されると、迷宮周辺に溢れる魔物を全て討伐。

 そして、多くの被害をだしながらも、その勢いのままに迷宮を攻略を果たした。


 その後、迷宮から魔物が溢れる前に討伐するよう国が管理するようになるのだが、これを国直属の衛兵や騎士だけで行うのは無理があった。

 そのため、その任を冒険者に任せるために周りに街をつくり、発展したのが今の『迷宮都市ガイアス』だ。


 まぁさらっと流したが、最初の迷宮の攻略はもちろん、その後の冒険者たちの迷宮の探索、何度か起きた迷宮全体で起こった極大級のスタンピードなど、冒険譚には事欠かない街で、オレにとっては、いつかは訪れたいと夢見ていた街だった。


「うわぁ~! おっきぃ~! 城壁、王都より高くないかな? 凄いね!」


「あぁ……凄いな。話には聞いていたが、ここまでとは思わなかった……」


 馬車の窓から覗くオレとユイナの目に映ったのは、この国一強固な城壁の威容だった。

 ライアーノの街の城壁と比べると、三倍近い高さがあるのではないだろうか……。


「二人とも初めてやったら、そりゃ驚くわな~。ちなみにちょっと変わった形してるやろ?」


 メイシーに言われてよく見てみると、確かにこの城壁、少し変わった形をしている。


「そこの街の門通る時に見てみたらようわかる思うけど、この城壁は迷宮から魔物が溢れ出した場合を想定して作られてんねん」


「なるほど。門が街の外側に向かって開くようになってるな」


「あっ! ほんとだ! 門の外側におっきな閂がかけれるようになってる!」


 過去に起こった極大級のスタンピードを教訓につくられたという話を、何かの本で読んだ事を思い出す。


「お。そろそろ門をくぐるで!」


 そんな会話をしていると、あっという間に門の前まで馬車は進み、『迷宮都市ガイアス』の街に到着したのだった。


 ~


 その日の晩、ザリドが手配してくれていた『銀狼ぎんろうの誇り亭』で一夜を明かしたオレたちは、早朝、ザリド達との別れの時を迎えていた。


 ちなみに宿のランク的にはこの街ではかなり上のランクの宿らしいが、王都の最高ランクの宿などとは比べるべくもなく、他の宿と比べて、清潔で安全面が優れているだけらしい。

 これは街の宿を利用する者の大半が迷宮攻略に挑む者たちなので、大商人や貴族向けの宿が存在しないためだという話だった。


 そして、その宿の前。

 ザリドたちとの話も終わり、オレは、


「ここまで送って頂き、本当にありがとうございました」


 と言って頭を下げた。


「いや。護衛のはずが逆に命を救われ、守られる事になったのですから、お礼を言うのはこちらです」


「そんな……危険な目にあわせてしまったのはボクたちのせいです! 本当にごめんなさい!」


 そうやって、こちらが、ボクたちが、と言い合いが始まりそうになった所でメイシーが、


「怪我は傷もほとんど残らず治ったんやし、うちらも無事にここに辿り着けたんやから、お互いのお陰っちゅうことでええやろ? まぁザリドっちらは、帰り道も一応用心して帰りや」


 と言って、サクッと話を纏める。


「ふふふ。そうだな。メイシー殿の言う通りです。ただ、我らの事は心配ご無用。それよりも、迷宮には本当に気をつけてください。罠などはないと聞きますが、迷宮では、突然大量の魔物が一斉に生まれる事が稀に起こります。三人と言うのは迷宮に潜る際の最低人数と言われていますので、くれぐれも油断なさらないように」


「ありがとう。気をつけます。ザリドさんも、道中お気をつけて」


 その後、他の人たちとも別れの挨拶を交わし、ザリドたちとは宿の前でそのままわかれた。


「さて。それじゃぁ、準備は終わってるし、さっそく冒険者ギルドで手続きしたら、迷宮にも挑戦してみよか~!」


「あぁ! 飯も食べたし、準備も王都で先に済ませてあるし、早く向かおう!」


 不謹慎なのはわかっているが、迷宮と言う冒険の舞台に挑むことに、オレは胸の高鳴りが抑えられずにいた。


「はぁ……自然体のメイシーさんや、わくわく顔のトリスくんを見てると、ボク、一人で緊張しているのが馬鹿らしく思えてきたよ……」


「わ、わくわく顔って……」


「ははは。そりゃぁ、堪忍やで。まぁでも、ユイナっちは、あのソラスの街の戦いを生き残ったんやから、もっと自信持たなあかんで!」


 メイシーはそう言うと勢いよくユイナの背中を叩いた。

 背はメイシーの方がずっと低いが、力は遥かに強く、その衝撃でユイナが咳き込む。


「ぃぃっ!? けほっけほっけほっ……め、メイシーさん!? 力の加減を覚えて下さい! 本気で痛かったよぉ!」


「あははは。堪忍や!」


 ユイナにとっては痛い目にあって感謝するどころじゃないだろうが、メイシーのお陰で緊張もかなり解けたようだ。

 今回のことはたぶんメイシーの素であり、狙ったわけではなさそうだったが、まぁ結果的に変な緊張が解けたようなので、良しとしておこう。


「二人でじゃれてるとこ悪いが、もうギルドが見えたぞ」


 そう言ってオレが指をさした先にあるのは、この『迷宮都市ガイアス』の冒険者ギルドだ。


「ほらほら。ユイナっち、もう着くって!」


「もぅっ! メイシーさん、自分が思ってるより、すっっっごい力が強いんだから、気をつけてくださいね!」


「わかったって。それより、早く手続き済ませて迷宮もぐるで!」


「そう言えば、手続きって何をするんですか?」


「便宜上、冒険者ギルドが代行業務してるんやけど、迷宮に潜る時にはギルドカードとは別に、迷宮に挑戦するっちゅう登録が必要なんや。んで、登録したたら専用の木札を貰えるから、それを使って迷宮に入るっちゅうわけや」


 オレは予め本で読んで知っていたのだが、この迷宮都市の冒険者ギルドでは、通常通りの冒険者向けの依頼クエストなどの業務の他に、迷宮に関する業務も行っている。


 まず、迷宮に潜るには、迷宮探査登録というものを行う必要がある。

 ただ、これは単に何者であるかをギルドに申請するだけなので、冒険者の場合はギルドカードを見せるだけで済む。


 そして、その登録が終わると木札が貰える。


 迷宮にもぐる者は、その木札を持って迷宮に行き、迷宮の入場を管理する衛兵にその木札を預ける事で迷宮に入れて貰え、無事に生還した時に、その木札を返して貰える仕組みになっていた。


 これにより、迷宮探索に挑む者たちを管理しており、申請した予定日を過ぎても戻らない場合は、迷宮で何らか問題が起こったものと判断される。


 ただ、あくまでも何人が未帰還か? それは予定ではどの階層をめざしていたのか? その者たちの強さは? などから、迷宮の状況を探る為のもので、問題を察知したからと言って、必ずしも救出して貰えるものではない。


「そ、そうなんだね……救出隊を派遣するぐらいしてくれても良いのにな……」


 しかし、ユイナにその辺りの説明をしてあげたところ、ちょっと頬を引き攣らせていた。


「まぁ冒険者ギルド自身が、何か戦力を持っているわけではないからな。それは仕方ないだろ。そもそも迷宮に挑むのだから、自己責任だろ?」


「うぅぅ……い、異世界厳しいな……」


 最近はユイナもこっちの世界になじんできて、オレもついついユイナが異世界から来たという事を忘れてしまう事があるが、こういう話の節々で、やはり違う世界から来たのだなと再認識させられる。


「さぁ、それじゃぁギルドに入るで!」


 こうしてオレたちは、手続きのために冒険者ギルドに入ったのだが、そこには予想をしていなかった人物が待っていたのだった。




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 あとがき

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呪いの魔剣も、この話でとうとう100話に達する事ができました!

私の作品としては100話越えは3作品目♪

ですが、書籍化やコミカライズ関連の作業で更新が滞ったりする中、

ここまでお読み頂いた皆様には本当に感謝しております。


後半になるほど、書籍版と設定や展開が変わってくる部分が増え、

執筆難易度があがっていく状況ですが、これからも何とか

エタらないように頑張っていきますので、どうぞ変わらず

応援のほど、よろしくお願いいたします<(_ _")>

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