【第102話:迷宮へ】

 冒険者ギルドで探査登録を終え、木札を貰ったオレたちは、迷宮の入口へとやってきていた。


「こ、ここが迷宮の入口か……」


 何かもっと簡素な建物を想像していたのだが、そこにあったのは、まるで神殿のような装飾の施された立派な建物と大きな門だった。


「なんか凄いね~」


「あ、あぁ……これが迷宮の入口なのか……」


 その立派な建物を見てユイナと二人でちょっと感動していたのだが、


「まぁ、魔物が溢れてきたときのための結界魔法のような魔道具も設置されてるみたいやし、衛兵や騎士も詰めて守りを固めてるから、ちゃんとした建物の方が都合がいいんやろな」


 小さな声で「それでも装飾過多な気はするけどな~」と続けて、メイシーは笑っていた。


「おい。迷宮に入るために来たのなら、先にそっちで手続きを済ませてくれ」


 迷宮を前にして三人で話していたら、入口を警備している衛兵に声をかけられた。


「すまない。木札は向こうで渡せば入れるのか?」


「あぁ、予定を伝えて木札を預けたら、後は自由に入って構わない」


 衛兵の指す場所には、屋根だけの石造りの建物があり、数人の冒険者風の者たちが何か受付のような所で手続きをしていた。

 一瞬、さっきの召喚者の二人もいるかと思って警戒して探してみたが、既に中に入ってしまったのか、その姿は見えなかった。


「えぇと……三人パーティーですか?」


 受付もいくつかあり、ほとんど待ち時間なく順番が回ってくると、若いギルド職員風の男が尋ねてきた。


「はい。何か記入したりするのですか?」


「あれ? 迷宮は初めてですか? 名前などの情報はギルドで登録してあるので、ここでは木札を渡してくれたら、後は迷宮探索の主目的と、どこまで進むつもりで、いつ戻る予定なのかを教えて頂ければ大丈夫ですよ」


「今回は初めての探索なので、目的は特にないんだが……しいて言えば様子見と肩慣らしと言った所か。あと、降りても迷宮二階層までで今日中には戻ってくる予定だ」


「ええと……はい。記録しましたので、もう入って頂いて大丈夫ですよ。探索を終わられましたら、迷宮入口に向かって反対側に、報告用の受付がありますのでそちらで報告して忘れずに木札を返却して貰ってください」


 オレたちは受付の男に礼を言うと、迷宮の入口へと向かう。


「初めてなら、あまり無茶をするなよ」


 入口で先ほどの衛兵にそう声をかけられたので、


「あぁ、今日は様子見のつもりだ。ありがとう」


 と返して、いよいよ迷宮に設けられた巨大な門をくぐる。

 幅は馬車が二台は並んで走れるほどあり、高さもオレの背を倍にしても余裕だろう。


 そんな門をくぐると、一瞬何か違和感のようなものを感じた。


「わっ!? 何か結界魔法みたいなのが張られてるね」


 なるほど。オレは違和感を少し感じただけだったが、さすがユイナだ。


「ユイナっちは、魔力に敏感やなぁ。魔物が外に出てこないようにするための魔法障壁が張られてるらしいで」


 そんな会話をしながら門をくぐって中に入ると、そこには幻想的な空間が広がっていた。


「うわぁ……話には聞いていたけど、凄いね……」


 ユイナがそう口にするのも無理もない。

 オレたちの前には入口の門が小さく感じるほどの巨大な空間が広がっており、その天井には何か特殊な鉱物が埋め込まれているのか、ランプよりもずっと眩く輝いていて、まるで外にいるかのように明るい。


 そんな明るく巨大な空間だが、無数の柱が乱立しており、視界は遮られている。

 方角を見失う事は無い代わりに、先は読みにくい感じだ。


 実際、迷宮一階では迷う事はほぼ無いが、突然現れる魔物に怪我を負う者が意外と多いと聞く。


 しかし、そんな事より……迷宮独特の荘厳さに感動を覚えるな!

 小さい頃からいつかはと憧れていた迷宮のその光景に、つい嬉しくなる。


「なにかこう……グッと来るものがあるな!」


 思わず、二人にそう言って同意を求めたのだが、


「なんや? グッとくるものって?」


「ふふふ。トリスくん、男の子って感じだね!」


 どうやら女性陣にはわかって貰えなかったようだ。

 ちょっと恥ずかしい……。


「いいだろ……子供の頃から書物や話で聞いて憧れていた場所なんだから……」


「ひひひ。トリスっちは本当に冒険者に憧れてたんやなぁ。……でもなぁ、そろそろ気ぃ引き締めていこか~。もう完全に迷宮のテリトリーに入ったやろうし、いつ魔物が出てきてもおかしゅうないで」


「あ、あぁ、そうだな。まだ一階層とは言え、油断しないでいこう」


「だね! 一応、ボクの方が魔物より先にその魔力に気付くと思うけど、突然現れる事もあるみたいだし」


 通常魔物は、場所は定まってはいないが、ある場所で発生すると、その近辺でのみ同じ種類に属する魔物が発生し、特殊な魔物を除いてスタンピード以外では大きくは移動しない。


 だが迷宮の魔物は、迷宮全域で発生し、魔物の種類や数もバラバラだ。

 運が悪いと、魔物と戦っている後ろに、全く別の魔物が突然現れたり、あちらこちらで発生した魔物が集まって大きな群れとなって襲ってくる事もあるという。


 ただ、第一階層ではそこまで恐れる必要はない。

 それは、深層と呼ばれる第一〇階層から地上に近づけば近づくほど、魔物の発生する数は少なく、その個体の強さも弱くなるらしいからだ。


「まぁ様子見の第一階層だとは言え、ここでもCランクぐらいの魔物は出現する事もあるらしいし、召喚者や聖王国の事もあるから、油断しないでいこう」


「そやな。魔物はともかく、召喚者や聖王国の奴らと出くわしたら、正直、どうなるかわからん。しかも、こんな人の目の無い所で襲われたら証拠も残らんしなぁ」


 子供の頃からの「冒険者になって迷宮を探索する」という夢が実現したわけだが、浮かれてばかりもいられないな。

 メイシーの言うように、こんな所で襲われれば、助けは期待できないうえに、逃げるのも至難の業だ。


 オレはちょっと浮かれていたことを反省し、もう一度、気を引き締めたのだった。



******************************

 あとがき

******************************

Twitterなどで暫く更新できない旨をお伝えさせて頂いておりましたが、

予定より少し延びて、随分長い間、お待たせしてしまいました。

申し訳ございません<(_ _")>


色々抱えていた作業もちょっと落ち着きましたので、ぼちぼち

またWeb版の更新を再開したいと思います。

これからも「呪いの魔剣」ともども、どうぞ宜しくお願いします!


※コミカライズ版が、先日コミックウォーカー様にて、

デイリー1位を獲得しました!凄い!

佐々川いこ先生によるコミカライズ版も宜しくお願いします!

******************************

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る