【第92話:姉さん?】

 スノア殿下とリズ、それに母マムアに別れを告げたオレたちは、王城を出て、適当な店で昼食をとったあと、冒険者ギルドに向かった。


 最近すごく思うのだが、実家の料理人オートンと『旅の扉亭』の女将バタが、いかに料理人としての腕が凄かったかということを……。

 別にさっき入った店も決して不味くはなかったし、どちらかと言えば人気もあり、美味しかったのだが、それでも何か物足りないものを感じてしまう。

 恐るべしバタ、オートン姉弟……落ち着いたら必ずまたライアーノに戻ろう。


 王都はすぐにたつので我慢するにしても、迷宮都市ガイアスには少し長く滞在することになるだろうし、向こうでは絶対に旨い料理を出す店を探し出したいところだ。


 そんな事を考えながらも歩き続け、オレたちは冒険者ギルド本部へとたどり着いた。

 だが、その時にはすでに昼を過ぎてから、かなりの時間が経っていた。


「やはり王都のような巨大な街は、何をするにしても移動などに多くの時間をとられるな」


「そうだねぇ~。同じ街って言っても、ここはホントに大きいし、ボクもう足が結構疲れてきたよ……」


「なんや二人とも。これぐらいで弱音なんか?」


「いや、弱音って訳ではないんだけど、オレはずっと小さな街で暮らしてたから、移動に時間をとられるのが、なんだか勿体ない気がして……。その時間を鍛錬とかに使った方が有意義だと思ってしまうんだ」


「えっと……ボクだけ後ろ向きな意見でごめんなさい……」


「お? そんな事言っている間にギルドが見えたで!」


 そう言ってメイシーが指をさす先には、昨日も見た巨大な冒険者ギルドの建物が見えたのだった。


 ~


 冒険者ギルドに着いたオレたちは、そのまま中に入り、昨日も訪れた受付窓口へと向かった。


 すると、オレやユイナより、少しだけ年上に見える四人組の男に、声をかけられた。


「自分らさぁ、まだ冒険者成り立てだろ?」


「え? まぁ、オレとこの子はまだ半年も経ってないけど、それが何か?」


「あん? そっちの小さい女もだろ?」


 うん。メイシーはオレも冒険者になって何年なのかは知らないんだ……。


「いや、メイシーは……そんな事はないぞ?」


 ただ、冒険者に成り立てではないので、とりあえずそう答えておく。


「ん? 嘘つけ。そいつが一番幼いじゃねぇか。それよりよぉ。俺らこれから修練場で模擬戦するつもりやから、ちょっと練習相手になれよ?」


「ちょっと連携の確認したいから、ついでにお前らも鍛えてやるよ」


 そして、ありがたく思えよと恩着せがましく言ってきた。


「なんや……お前ら、えぇ度胸してんなぁ? 絡むんやったら、もうちょい相手見たほうがええで?」


 メイシーの顔が笑ってるけど、笑っていない……。


 しかし、こいつらは何をしたいのだろう?

 もうメイシーにボコボコにされる未来しか見えないのだが……。


「相手ってなんだよ? 背が小さすぎて見えないってか? ぎゃはは……がふっ……痛ってぇな! 何しやが……」


 そう思っていると、ライアーノの冒険者ギルドのギルドマスター『ヨハンス』を上回る巨漢の男が、割り込むようにメイシーに話しかけてきた。


「メイシー姉さん! ご無沙汰してます!!」


 その大きな声に、周りの視線が集まる。


「おい……あれ、第二級冒険者のゴウガだよな……?」


「あ、あぁ……なんで、あんな気性の荒い人が頭下げてんだ……?」


 そして、そんな声が聞こえてきた。


「ごごご、ゴウガさん? この女、お知り合いなんですか?」


「あぁん? お前誰だ?」


 恐る恐るそう聞いた若い男だったが、どうやらゴウガという男の方は覚えてすらいないようだ。


「せ、先日、中級冒険者向けの戦闘講習を受けさせてもらった……」


「あぁ! あのへなちょこパーティーか! てめぇらみたいなへなちょこが、メイシー姉さんに何話しかけてんだ! んん? 場合によっちゃぁ……シメるぞ?」


「ひぃ!? す、すみません!!」


 そして、オレたちに声をかけてきた男たちは、脱兎のごとく走り去っていった。


「ゴウガか。せっかくうちがボコボコにして性根を叩き直したろうとおもっとったのに、相変わらず厳つい顔に似合わず、やさしいなぁ?」


「あははは。メイシー姉さんには敵わないですねぇ。しかし、いつ王都へ?」


 おぉぉ……凄い怖そうな人なのに、実はメイシーから救ってあげていたのか……。


「昨日、街に着いたとこや。でも、王都には数日もおらんけどな」


「なんだ。そうなんですね……って、後ろの若い二人はメイシー姉さんの仲間ですかい?」


 ゴウガは、ようやくオレとユイナに気付いたようで、そう尋ねてきた。


「あぁ、うちがパーティーに入れて貰ったんや」


「なっ!? メイシー姉さん、パーティー組まれたのですか!?」


「そや。これから迷宮都市向かう予定やから、何かの時は面倒みたってや」


「その若さで迷宮ですかい? かなり有望な若者みたいですね」


 そして、メイシーがオレたちに目で挨拶を促してきたので、オレも自己紹介しておく。


「オレの名はトリスです。メイシーにはいつも助けて貰ってばかりだけど、一応、パーティーを組ませて貰っています」


「ぼ、ボクっはユイナです! 魔法使いです!」


「まぁメイシー姉さんが認めた仲間やろうから、俺から何か言うようなことはないけど、第一級冒険者とせっかく一緒に冒険できるんだ。その経験を無駄にするなよ?」


「「はい!」」


 結局その後、メイシーとゴウガは軽く話をしただけで別れた。

 ゴウガは、昔メイシーが面倒をみてあげていた冒険者パーティーの一人らしい。


 しかし、そうするとメイシーは思っている以上に歳を……いや、まだ魔球でつぶされたくないので、これ以上は踏み込まないでおこう……。


「なんや。時間とらせて悪かったな。それじゃぁ、さっさと用事済ませてしまおか~?」


「あぁ、そうだな。もう少しすると混む時間になりそうだし、急ごう」


 そしてオレたちは、ようやく受付へと続く列へと並んだのだった

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