【第93話:護衛依頼?】

 まだ混む時間には早かったはずだが、それでも受付にはそれなりの人数が並んでおり、列に並んでから半刻ほどかかって、ようやくオレたちの番が回ってきた。


「はーい! 次の方どうぞ~!」


 受付嬢の元気な声に促され、カウンターに進む。

 年の頃は、リドリーと同じく二〇歳ぐらいだろうか。

 少し短めの銀髪に、童顔の目が印象的なとても元気な受付嬢だった。


「今日はどういったご用件ですか? 依頼ですか? ちょうど少人数パーティー向けの討伐依頼がいくつかありますよ? いかがです?」


「あぁ、いや。依頼は受けるつもりではいるんだが、指名依頼が入っているはずなんだ。あと、報奨金の受け取りをしたい」


「おぉぉ! お若いパーティーなのに、指名依頼とは優秀なんですね! それに報奨金とかどんな活躍されたんです? あっ、えっと、それでパーティー名は?」


 勢いが凄い子だなと思いつつ、


「あぁ、すまない。パーティー名は『剣の隠者』だ」


 とパーティー名を伝えると、その受付嬢は手元の書類をぺらぺらとめくり始めた。


「えぇと……つるぎの、いんじゃ、と……」


 そして、あるページでその手を止めると、


「あれ? 担当の職員が決められていますね。奥の部屋で対応する事になっているみたいなので、そちらで少しお待ちいただけますか?」


 そう言って、オレたちを受付の裏へと続く廊下へと案内すると、その受付嬢は元の持ち場、受付窓口へと走って戻っていった。


「中々騒がしい受付嬢だったな……」


「ははは……そうだね。それでこれって、きっと『仮面の冒険者』の専属の職員さんがくるんだろうね」


「そやろなぁ。しかし、第一級冒険者のうちでも、こんな待遇で迎えられた事なんて数えるほどしかないで」


 数えるほどにはこのような特別扱いを受けているのかと、あらためてメイシーの凄さを認識させられる。


「わぁ~やっぱメイシーさんは、こういうの何度か経験あるんですね~。ボクはこういうの未だに慣れないな」


 そんな話をしていると、扉をノックする音が響き、一人の妙齢の女性が入ってきた。


「すみません。お待たせしてしまいましたね。あなたたちの担当をする事になっているミューラーと申します」


 そして、担当というのはもちろん『仮面の冒険者』のと付け加えた。


「ミューラーさんですね。一応、パーティーのリーダーって事になっているトリスです」


「あっ、ボクはユイナです! よろしくお願いします!」


「うちはメイシーや。よろしゅうな」


 オレたちがそれぞれ軽く挨拶をすると、ミューラーさんは嬉しそうにこちらを見て、


「こちらこそよろしくお願いします。まぁと言っても、お聞きした感じですと、すぐに迷宮都市ガイアスの方へ移動されるようですが」


 と言って、少し苦笑した。


「そうですね。ただ、落ち着いたらいつかは王都でも活動してみたいと思っていますので、その時はよろしくお願いします」


「はい。こちらで活動なされるのを楽しみにお待ちしております。それで、まずはトリスさんとユイナさんの冒険者ランクの昇格の手続きをしたいと思っていますので、ギルドカードをお預かりさせて頂いてよろしいですか?」


 そう言えば、Cランクの上級冒険者へと上がることになっていたな……。

 なにかランクが上がるのが急すぎて、少し思うところもあるが、激闘をくぐり抜けてきた自覚もあるので、ありがたく手続きをして貰うことにした。


 ミューラーさんはオレとユイナのギルドカードを受け取ると、一度席を立ち、部屋を出ていったが、誰かに作業を頼んだのかすぐに戻ってきた。


「お待たせしました。それでは次はライアーノの街での報奨金の手続きに……」


 この後、少し退屈そうなメイシーに悪いなと一言声をかけつつ手続きを進め、報酬はギルド口座に振り込んで貰った。


 ちなみにソラルの街での活躍の分は、あちらの街で通常の手順で既に受け取っており、冒険者になってそれほど経っていないにもかかわらず、オレもユイナも当面はお金に困らない……と言うか、数年遊んで暮らせるほどのお金を手に入れていた。


「嬉しいんだが、なんか思っていた冒険者生活とだいぶん違うな……」


 思わずそう呟いてしまう程度には、懐には余裕ができていた。


「はい。報奨金の手続きに関しては以上ですね。では、続いて『剣の隠者』としての指名依頼が王室より出ていますので、そちらを進めさせて頂きますね」


 普通は指名依頼でも冒険者側には拒否権があるので、まずは受けるかどうかの確認をされるはずなのだが、さすがに王室からの指名依頼を断るわけがないと判断されたのか、そのまま話は進んでいった。


「まず、出発は三日後の朝、二つ目の時の鐘に併せて。集合場所は北門の門前広場になります。多くの馬車が停まっていると思いますが、こちらの旗をつけている馬車ですので、旗を目印にしてお探しください」


 さすがに王都だけあって、朝の門前広場は多くの馬車が止まっているのだろう。

 馬車を見分けるために、黄色い何かの文様入りの旗の絵を見せてくれた。


「わかりました。この旗ですね」


「ちょい待ち。その旗って貴族の馬車なんやないのか?」


「一応、建前上はこの馬車の護衛という事になっていますが、こちらダン侯爵家のものでして、御者や付き添いの者も騎士の方らしいですし、実際の護衛はダン侯爵自身で手配されるとの事です。ですから、表向きは護衛依頼ですが、まぁ単に馬車に乗るだけの依頼ですね」


 なんか至れり尽くせりで、ちょっと気が引ける……。


「そ、そうなんですね」


「なんや、どちらかというと、うちらが護衛されて移動する形やな……」


 こうしてオレたちは、名ばかりの護衛依頼を受け、迷宮都市までの行程が決まったのだった。

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