【第75話:謎の巨人】

 突然現れた巨大な魔物が、何かを投げつけてきたのを見て怒号が飛び交う。


「なんだありゃぁ!? こっち向かって飛んでくるぞ!!」


「に、逃げろぉぉ!」


「退避しろぉぉ!! 街壁に直撃するぞぉ!!」


 突然現れたのは巨大な一つ目の巨人。

 肩や胸など、所々に炎を纏っており、黒っぽい外皮と相まって、その恐ろし気な姿に拍車をかけていた。


 そして、投げつけてきたのは巨大な炎の塊だった。


 第二位階にも火の玉を射出して攻撃する魔法があるが、大きさが桁違いだ。

 そもそもユイナの光魔法ならともかく、火属性の魔法が届くような距離ではない。


 しかし、オレもゆっくり観察など出来る余裕はなかった。

 その巨大な炎の塊は、あきらかにこちらに向かって飛んできていたのだから……。


「ユイナ!!」


 隣のユイナに視線を向けると、突然起こった出来事に反応できずに立ち尽くしていた。

 オレは一言「悪い」と呟くと、


「ふひゃぁ!?」


 変な悲鳴を上げるユイナの首根っこを掴んで、後ろに投げ飛ばした。


 そして、ユイナと炎の塊との間に割って入ると、


「はぁぁぁぁ!!」


 痛みに悲鳴をあげる身体を無視して、魔剣を上から下へと振り抜いた。


(斬ってみせる!!)


 絶対の意思を以って振り抜いた魔剣は、寸分たがわぬタイミングで炎の塊を斬り裂き……炎は魔力へと戻って・・・・・・・消え失せた。


「なっ!? 仮面の奴! 炎の塊を斬り裂きやがった!?」


 感覚的なものから何となく感じ取ってはいたが、やはりこれは魔法だった。

 今のが本物の炎の塊で、中に何か燃え盛るものでも入っていれば、その質量によってオレはただでは済まなかっただろう。

 しかし、魔法なら魔剣で斬りさけば消滅するはずと踏んで、一か八か斬り裂いてみたのだが、どうやら賭けには勝ったようだ。


「うぐっ!?」


 確かに賭けには勝ったが、今のオレの身体にはかなりの無理をしいたようだ。


「いたたた……あぁっ!? トリィィ……が飛んで来たわけじゃなくて……1号! 大丈夫!?」


 慌てて思わず名前を呼びかけるユイナに苦笑しながら、左手をあげて無事を知らせる。


「なんとか大丈夫だ。ふふふ。しかし、なんだよ鳥って……」


「さ、さっきの、と、鳥の魔物でも飛んで来たのかなぁ? ……なんて……気を付けます……」


 うな垂れるユイナに苦笑しながら「そうしてくれ」と伝え、それより魔法をと、また『閃光』を撃つようにお願いする。


「さっきの炎の塊は、オレが何とかしてみせるから、それより魔法を頼む。ユイナの魔法が頼りなんだ」


 今現在、メイシーたちが優勢に戦えているのは、打って出ている冒険者がこの街のベテラン冒険者たちばかりだと言うのもあるが、ユイナが辿り着く魔物の数を減らしてくれているというのが一番大きい。


 実際、魔法が途切れていた今この僅かな間にも、メイシーたちの元に辿り着いている魔物の数はかなり増えてしまっていた。


「わ、わかったよ! でも……無理はしないでね」


「はは。無茶言うな。ここで無理しないと二人とも焼け死ぬぞ?」


 オレが茶化すようにそう言って笑ってみせると、ユイナは頬を膨らませて「そうかもしれないけど!」と愚痴をこぼしつつも、少しだけ平静さを取り戻していた。


(それより……厄介だな。あんな強力な魔法を使う魔物が混ざっているのか……)


 こうしている間にも、炎の巨人はここだけでなく、他の場所にも炎の塊を投げつけている。

 そのまま魔法として撃てば、恐らくまだここまで届かないのだろうが、魔法の飛距離の短さをその膂力で補っているようだ。

 今はまだ直撃を喰らったものは出ていないので大事には至っていないが、それでも非常に戦いずらくなってきているのは間違いない。


 しかし、魔物についてはかなり勉強したつもりだったが、ところどころに炎を纏った一つ目の巨人など聞いた事がない。


「あれって、なんて魔物なんだよ!? 魔法の炎を手で掴んでぶん投げてくる魔物なんて聞いた事ないぞ!?」


「知るかよ!? 一つ目の巨人っていやぁ、サイクロプスの変異種か何かじゃねぇのか!?」


 周りに少し耳を傾けてみたが、やはりその姿を知っている者はいないようだ。

 サイクロプスの変異種という声も所々から聞こえてくるが、本で見た絵からはあまりにもかけ離れており、とても同じ種族だとは思えなかった。


 そもそも、変異種と言うのは色が変化するものは多いが、容姿までもが大きく変わるものなど聞いた事がない。


「……え? 見た目が大きく変化する? ……いや、まさか……な……」


 その時、オレはとてつもない予感と共に、ある事に思い当たってしまった。


「……まさか……まさか、魔族……なのか……」


 自分で発した言葉だったが、その呟きを自分で聞いて、オレはどこか納得してしまっていた。


 その大きささえ抜きにすれば、少し黒く染まっているその外皮といい、どことなくサイゴウやユウマが魔族化した時の特徴と通じるものがある。


 そして、少しずつ近づくにつれ、その細部がわかってくると、その考えは確信へと変わっていった。


「ユイナ……聞こえるか?」


 少し声を張れば届く場所にユイナはいたのだが、オレはあえて仮面に付与された通信機能を使ってユイナに話しかけた。


『え? トリスくん、どうしたの?』


 ユイナは、わざわざ仮面の通信機能越しに話しかけてきたオレに疑問を抱いたようだが、何かを感じ取ったのか、ちゃんと自分も小声で仮面越しに返してきた。


「落ち着いて聞いてくれ。あの炎の巨人についてなんだけど……魔族なんじゃないか? 前に言っていた魔力から判断とかつかないかな?」


 ユイナはオレのその言葉に目を見開き、一瞬言葉を失ってしまう。


『……え? ちょっと待って……』


 しかし、すぐに改めて炎の巨人に目を向けると、暫くしてから、


『少し遠いけど、やってみるよ……』


 と言って、少しの間だけ沈黙した。

 数度呼吸をする間、二人の間に静寂が訪れる。


 そして……、


『と、トリスくん……アレは、トリスくんの言う通り、魔族だと思う……。まだ遠すぎてボクも絶対とは言い切れないんだけど、薄っすらとだけどボクたち召喚者特有の魔力の波動を感じるんだ……。元が誰だったかまでは、わからないけど……』


 そう言って、悲しそうに巨人を見つめたのだった。

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