【第76話:みんなの想い】

 悲しそうに巨人を見つめながらも、必死に集中を保って光の矢を撃ち続けるユイナに、オレは何もしてやる事が出来なかった。


「い、1号くん! さっきの話が事実なら、尚更落ち込んでいる暇はないから! だから今は……今は、あの炎の巨人を倒す方法を考えて!」


 中々無茶を言うと内心思いながらも、しかし、炎の巨人アレが魔族だとするならば、この中で魔族と2度も戦ったことがあるのはオレだけだ。


 オレが何とかするしかない。


 今の戦力だと、メイシーと二人で戦うしかなさそうだが、メイシーが抜けると間違いなく戦線が維持できなくなるだろう。


(どうすれば良い……考えろ……)


「はっ!? そうだ! セルビスさんに助力を!」


 オレがそう叫んだ時だった。


「まったく……年寄りにこの階段は堪えるわい。んで、儂を呼んだか?」


 内心、最高のタイミングで現れてくれたセルビスに拍手喝采しながら、オレは無理を承知でお願いをする。


「セルビスさん! あなたにお願いがあります。今からオレはあの炎の巨人に戦いを挑みにいこうと思っています。ですが、その為にはあそこで鉄球を使って奮闘しているメイシーを連れていかないと辿り着く事すら難しいでしょう。だから、セルビスさん。彼女が抜けた穴をサポートして貰えませんか?」


 この国でも恐らくトップクラスの実力の持ち主であるメイシー。

 しかも前衛兼中衛である彼女の抜けた穴を、いくら土魔法の権威であるとは言え戦闘のプロでないセルビスにお願いするというのは、かなり無茶なものだった。


「ん~……引き受けてやりたいのは山々なんじゃが、正直、アレの変わりは儂にはちと荷が重すぎるな。それに、儂の魔力も今は万全じゃないのでのぉ。手伝いはするが……すまぬのぉ」


 そして、セルビス自身もやはり無理だと判断し、そう返してきた。


「……そうですか……」


 オレ自身も無茶なお願いなのはわかっていたため、そう言って引き下がろうかと思ったのだが……。


「まぁでも……やるしかないんじゃろ? やらないで死ぬのを待つより、出来るとこまでやってみようじゃないか。儂でどこまで出来るかわからないがね」


 そしてセルビスは「あたしがもう10若けりゃねぇ」とお道化てみせた。


「セルビスさん……ありがとうございます」


 明らかに分の悪い賭けなのはわかっている。

 それでも、この賭けに負ければオレだけでなく、ユイナも、ミミルもメイシーも、そしてセルビスを始めとしたこの街の人たちみんなが死ぬことになるだろう。


(激痛で身体が思うように動かないなんて言っている場合じゃないな……)


「2号。そして、セルビスさん。それでは、ここを頼みます!」


 そう言って頭を下げたオレを、二人は笑顔で送りだしてくれた。


「任せて! ボク、魔力量だけは自信あるんだ!」


「まぁ儂も、なんとか工夫してやってみるさね」


 その言葉を受け、オレは激痛を無視して階段を駆け下りると、門の横にある小さな通用門から外に飛び出していったのだった。


 ~


「め、メイシー!」


 前線中央で戦神のような活躍を見せるメイシーを見つけると、駆け寄り、炎の巨人が魔族である事、そしておそらくオレの魔剣やメイシーの魔球でないと傷すらつけれない可能性が高いことを説明していく。


「現実に魔族と戦う日が来るなんて夢にも思わへんかったわ……。でも、仮面の兄やん、体は大丈夫なんか? 最悪うち一人で斬り込んでも良いんやで? よっと!」


 話ながらも近づいて来る魔物を魔球を使って撃破していくメイシー。


「いや、オレも行かせてくれ。身体も多少は動くようになってきた。的を分散させるぐらいはできるはずだ」


 ここまで走ってきただけで苦痛に顔を歪めているオレを見て、渋るメイシー。


「ん~……でもなぁ……」


「頼む!」


 だが、真剣に頼むオレにメイシーがようやく折れてくれた。


「わかったわかった。でもなぁ……無駄死にするような事は絶対なしやからな!」


「あぁ、わかっている!」


 オレはメイシーに礼を言うと、すぐさまセルビスに合図を送った。


「セルビスさんが、時間稼ぎと足止め、それにここのみんなのサポートをしてくれることになっている! オレとメイシーはあの炎の巨人……いや、魔族を倒しに行く! すまないがここを頼む!」


 オレの無茶なお願いに、しかし、ここで戦っている冒険者たちは誰一人嫌な顔をせず、声をかけてくれた。


「仮面の冒険者さんよぉ! 変異種の討伐からずっとあんたに良いとこ全部持っていかれてるんだ。ここを死守する事ぐらい、俺たちでなんとかしてみせるぜ! だから……だからあんたもあの炎のデカ物を頼んだぞ! もう、あんたらしかこの街を救える者はいないんだ!」


 そう言って最初に声を掛けて来てくれたのは、『赤い牙』のラックスだった。

 最初、出会った時の印象はあまり良くなかった彼だが、根は良い奴なのだろう。

 少し照れつつも、ニカっとこちらに向けて強がりの笑みを飛ばしてきた。


「ラックス……」


 そんな彼に内心感謝をしていると、


「ちょっとぐらいあたしたちにもカッコつけさせてよ」


「そうだ。お前たちは魔族に集中してくれ」


 同じく『赤い牙』のローラとデンガルが後に続き、他の周りで戦っている冒険者たちも心強い言葉を投げかけてくれた。


「みんな……すまないが、ここを頼む……」


 オレは戦っている皆に順に視線をやって頷きを返すと、


「メイシー! 行こう! 魔族に、この世界の人の強さを思い知らせてやるんだ!」


 メイシーと共に駆け出し、守りから攻めへと転じたのだった。

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