【第12話:先に言って】
二人でパーティーとしての活動を始めてから、5日が過ぎようとしていた。
あれから3度の討伐依頼を受け、全て問題なく成功させている。
今のオレたち二人なら、初級冒険者で受けれるような討伐依頼なら問題なさそうだ。
オレもそうだが、ユイナもその事に少しは自信がついたようだし、これからの目処も立ったと言う事で、今日は休息日とする事になっていた。
そして、その休息日の朝食の席。
「それでトリスくん。今日はどうするの?」
ユイナには、パーティーを組んだのだから名前は呼び捨てで良いぞと話したんだが、何故かよくわからないが、恥ずかしいからと君付けで呼ぶようになっていた。
「今日はちょっと実家に顔を出そうと思ってるんだが、良かったらユイナも一緒に来ないか?」
まさか誘われるとは思っていなかったようで、少し驚いてから口を開く。
「え? 私も行って良いの? でも、家族水入らずの所にお邪魔するのも悪いし……」
そう言って断ろうとするが、そんな寂しそうな顔してる奴を放っておけるわけが無い。
「大丈夫だ。どうせ家族以外もいるし、今日は王都から帰ってくる母さんの予定を確認するだけだから」
それでも少し渋っていたユイナだったが、ちょっとだけ強引に誘うと、最後には折れてくれたのだった。
~
バタおばさんの美味い朝食を食べ終わってもまだ少し時間が早かったので、少し寛いでから一緒に実家に向かった。
途中、少し寄り道をしてお土産にお菓子などを購入したが、それでも少し思っていたより早くに着いたようだ。
「あ! トリス様じゃないですか」
領主館の前まで行くと、先に顔馴染みの門番の男に声をかけられた。
「父さんたちはいるかな? ちょっと顔見せと母さんの予定を確認しに来たんだけど?」
「領主様はいらっしゃいますが、ファイン様とセロー様はマムア様のお迎えに出ておられます」
「え? 母さん、随分早く着いたんだね」
門番の男とそんな会話をかわしていると、服の袖がくいくいと引かれているのに気付いた。
「と、トリスくん……実家って、ここなの……?」
振り返ると、口をぽかんと開けて目を点にしたユイナが、領主館を指さして立っていた。
「そうだけど……? どうしたんだ?」
するとオレの服を縋り付くようにがばっと掴んで、
「そうだけど? じゃなーーい! ここって領主様のお家だよね!? じゃぁ、トリスくんは領主様のご子息さまってこと!? ど、どうしてそう言うことを黙ってるのかなぁ!?」
と涙目で訴えかけてきた。
「え? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ~!?」
「まぁでも、気にしないで良いぞ?」
「ボクは気にするの!」
「なんでだ? オレは三男だし、成人して家を出たからもう貴族ってわけでもないんだぞ?」
「そう言う問題じゃないの! それにボク、普通に依頼に行くような格好で来ちゃったじゃない!?」
ユイナが自分の服を見て、さらに狼狽え出したその時、門の奥から小さい影が飛び出してきた。
「トリスお兄ちゃん!」
そう言ってオレの腰に抱きついてきたのは、妹のミミルだった。
「ただいま。もう母さん帰ってきたんだって?」
腰に抱きついて見上げてくるミミルの頭を、そっと優しく撫でながら母さんの事を聞いてみる。
「うん! でも、お父さんたちの様子見てると、何か大変みたいなんだけど……」
聞いても教えてくれないの! と頬を膨らませたところで、オレの隣に立つユイナに気が付いたようだ。
「ん? トリスお兄ちゃん、この綺麗な人は??」
「こいつはユイナ。冒険者仲間で、パーティーメンバーなんだ」
ユイナを見上げながら首を傾げるミミルに、パーティーを結成したんだと説明する。
「わぁぁ~! もうパーティー作ったんだ~♪ あ、私は妹のミミルです。ユイナお姉ちゃんって呼んでも良いですか?」
「か、かわいい……あ、うん。ボクの事は好きに呼んでいいよ。その、ミミルちゃん、よろしくね」
屈みこみ、小柄なミミルと目線を合わせてそう返した。
「わ~い♪ トリスお兄ちゃんの事で困った事があったら、ミミルに言ってきてくださいね」
「おいおい。オレはそんな困らすような事はしないぞ?」
「現在進行形で、ボク、凄く困った状況になっている気がするのですが……」
そして「もう帰って着替える暇ないよね」と、小さな溜息と共につぶやく。
「と、とりあえず、いつまでも立ち話してても邪魔だし、中に入ろうか」
上手く誤魔化したつもりだったが、少しジト目で見られてしまった。
「あ、それならミミルが父さんに声かけてくるから、トリスお兄ちゃんたちは応接で待ってて!」
ミミルは言うが早いか、嬉しそうに駆け出していった。
「あぁ……もう逃げられない……」
「その、なんか悪かったな。嫌なら今日は別行動にするか?」
うな垂れるユイナを見て、何がそんなに嫌だったのだろうと思いながらも、謝罪しておく。
「へ? あっ、違うの!? ごめんなさい! ボク、びっくりしちゃって、絶対嫌なんかじゃないよ!? 誘ってくれたのすっごく嬉しかったし!」
急に顔をあげると凄い勢いで訴えかけて来たので、ちょっと驚いた。
「そ、そうか? それなら良いんだが……」
「うん! で、でも……次からこういう事は前もって教えて!」
「わかった。気を付けるよ。それじゃぁ、そろそろ行くか」
オレは門番の男に一応入っていいかと確認して許可を貰うと、二人で屋敷の1階にある応接室に向かうのだった。
~
応接室と言っても、そこまで高級な家具を使っているわけでは無く、最低限必要なものを、最低限の絵画などで飾り付けたかなり質素な部屋だった。
ユイナはそれでも十分凄いと恐縮しているようだが、他の貴族などを迎え入れるのに、ぎりぎり馬鹿にされない程度の装飾だ。
「うちは田舎の貴族だからな。この部屋だって結構無理して作ったらしいぞ」
「そうなの? 少なくともボクの通ってた高校の校長室よりは、ずっと豪華だよ……」
コウ校と言うのがよくわからないが、ユイナの知っている似たような部屋よりは豪華らしい。
「まぁでも、本当にうちは金が無いから使用人も最低限しかいないしなぁ」
「いや、使用人がいる時点でボクとは住む世界が違うんだけど……そういう話を聞くと、トリスくんは本当に領主様の息子なんだなってわかるよ……」
何かうんうんと頷きながら一人で納得しているユイナを眺めていると、ドアをノックする音が響いた。
「トリス、入るぞ」
「トリスお兄ちゃん、お待たせ~!」
扉を開けて入ってきたのは、父さんとミミルだ。
「随分早かったですね。仕事は大丈夫なんですか?」
「少しぐらい問題ないさ。それでさっそくパーティーを組んだと聞いたんだが……」
横で直立不動で笑顔のまま固まっているユイナを見て、少し困った顔をする。
「女性、なんだな……」
ん? 父さんがパーティーメンバーが男とか女とか、そういう事を気にするようには思えないのだが……。
少しその事を不思議に思ったが、ユイナが固まっているのでオレが紹介しておかないと不味そうだ。
「えっと、こいつはユイナ。オレと同じ歳だけど、優秀な魔法使いだ」
オレがユイナを軽く紹介すると、そこでようやく我に返って慌てて自分でも挨拶をはじめる。
「ボクはユイナです! 領主様のごごご子息さまだとは知らずに、恐れ多くもパーティーを組まさせて頂いておりまする!」
言ってから、自分のおかしな話し方に気付いたのか、頭から湯気がでそうなほど顔を真っ赤にしている。
「あはは。ユイナお姉ちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ! 事情は何となくわかるし~」
「そうだぞ。どうせトリスが領主の息子であることを知らせずに連れて来たとかだろう? 気にしなくていいぞ」
え? なんかオレに視線が集まってるんだが、オレのせいなのか……?
というか、なぜわかった……。
「お兄ちゃん……やっぱりわかってないみたいだね……」
父さんに呆れられるのはいつもの事だが、ミミルの視線が痛い……。
「しかし、参ったな……今からだとユイナとやらに隠れて貰うのも間に合わないか……」
父さんがそう呟いた瞬間、応接室の扉が、突然勢いよく開かれたのだった。
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