【第13話:幼馴染】
「きゃっ!?」
突然開かれた扉に驚いたユイナが、短い悲鳴をあげる。
しかし、オレはその瞬間わかってしまった。
そして、ユイナを連れて来た事を後悔することになった。
「トリス! お久しぶりですわ!!」
そこにいたのは金髪碧眼の身目麗しい少女。
透き通るように輝く金の髪を後ろで結い上げ、白と青を基調にした神官服を身に纏い微笑むその姿は、まさに聖女の名にふさわしい容姿だった。
「す、スノア……さま……」
オレは自分の頬が引き攣っていくのを感じながら、そう呟くのがやっとだった。
エインハイト王国第2王女『スノア・フォン・エインハイト』様。
幼き頃より稀少な聖属性魔法の才能を開花させ、国内はもちろん近隣諸国にまで『青の聖女』の二つ名を轟かせていて、本当ならオレなんかが普通に接して良い相手ではなかった。
「まぁまぁ? わたくしとトリスとの間で『様』なんてつけないくださいまし。トリスが屋敷に戻ってきたと聞いて、飛んで来たのですよ?」
「い、いや、しかし、オレはもう家を出た身ですから、家族はともかく、他の貴族様はもちろん、まして王女様を呼び捨てにすることは……」
そう言って、断ろうとしたのだが、これが藪蛇だった……。
「そうよ!! わたくしトリスの成人の日に間に合うようにと、予定を早めて駆け付けたのに、どうして家を出てるんですの!?」
「そ、それは、前に会った時にも話しましたが、冒険者になるので家を出ると……」
「それこそ、わたくしも前に会った時に話しましたが、そんな事は許しません! わたくしの近衛騎士に、『青の騎士団』に入ってくださるのでは無かったのですか!?」
昔、お互いがまだ幼かったころ、オレは王都の母さんのところに訪れていた。
その時、オレはエインハイト王国第2王女であるスノア様と出会った。
当時のオレは礼儀や立場など良く分かっておらず、ただの歳の近い女の子として、
どんな話をしたかまでは覚えていないが、話が合い、お互い楽しい時間を過ごしたのは覚えている。
しかし、王女の周りにいるような子供たちは、皆有力貴族の子息たちで、小さい時から王女様を敬うように教育されていたため、オレの行動や言動はとても失礼なものだったに違いない。
その当時のオレは、スノア様のことをスノアと呼び捨てにしていたし……。
このような場合、普通なら周りにいた大人たちから咎められる事になっただろう。
だが、心の底から楽しそうに笑う王女を見た当時の王太子様である今の国王様が、オレに対してこれからも普通の友として接するように命じられた。
そのお陰と言うか、そのせいでと言うか、オレは5年前までスノアと呼んでいたし、ただの幼馴染として接してしまっていた。
しかし、オレも成長するにつれ、さすがにそれがどれだけ非常識な事かを認識するようになって、その関係は変わってしまった。
だから、変わらず接してくれるスノア様の事は嬉しかったが、オレはどう接すれば良いかわからなくなっていたのだ。
だから、出来るだけ会うのを避けていたのだが……。
「その、だから、オレは冒険者以外になるつもりはないですし、近衛騎士って話も冒険者がどういうものかわからなかったスノア様に騎士のような戦う者たちですって話したら、勘違いされただけで……」
「そ、そうだったかしら……でも、わたくしが危ない時は守ってくださるって!」
「それは今でも変わりません。スノア様が困られた時は、必ず助けに向かうつもりです」
この想いは嘘偽りのない本当の気持ちだった。
自由な冒険者に強い憧れはあるものの、幼馴染として仲良くしてくれたスノア様が何か困っている事があるのなら、何よりも優先して助けに向かうつもりだ。
たとえただの冒険者のオレに、出来る事が限られていたとしても。
「そそ、そうなのですね。それなら、まぁ……ん?」
頬を少し朱に染めながら目を泳がせていたスノア様は、そこでようやくオレの隣でオロオロとしているユイナに気付いて目を向ける。
「ところで、トリス。その子は誰なのです?」
そう言われて目を向けられたユイナは、まるで蛇に睨まれたカエルのように固まっている。
「この子はユイナ。今、冒険者としてパーティーを組んでいる仲間です」
オレが軽く紹介してから、ユイナの脇を小突くと、そこでようやくぎこちなくだが動き出す。
「お、王女様においてはご機嫌麗しゅう」
だめだ、混乱してるようだ……。
「ちょっとうちの父さん……領主様と会っただけでもいっぱいいっぱいだったところに、第二王女であるスノア様が現れたんで……失礼はお許しください」
混乱するユイナの代わりに、念のために謝罪しておいたのだが、やはりスノア様は全く気にしていなかった。
「あら? トリスの仲間なら私の仲間でもありますわ。ユイナさんでしたか? これから
う~ん……スノア様と縁を切る気は勿論ないのだが、これからも普通に付き合っていくつもりのようだ……。
しかも、お友達として……。
「ひゃ、ひゃい! ボクなんかでよろしければ、よろしくお願いいたしまする!」
「あぁ……ユイナ、少し黙ってていいぞ……。しかし、どうしてスノア様がまだ屋敷におられるんですか?」
オレがそう尋ねた時、またこの部屋に訪問者が現れた。
「大規模なゴブリンのコロニーが出来たからよ」
応接室の入口に立っていたのは、母マムアと兄さんたちだった。
「マムアさん! ご無沙汰しておりますわ!」
そう言って入口に駆け出すスノア様。
元宮廷魔術師の母さんは、今もたまに王都に呼ばれては後進の育成に勤しんでいる。
スノア様に魔法を教えていたのも母さんなので、この中で一番付き合いが深い。
母さんとスノア様が並ぶその姿は、母さんの反則的な見た目の若さもあって、まるで姉妹のようだった。
「スノア様。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「マムアさんも変わりはないですか? しかし、相変わらずとんでもなくお若いですわね……」
「まぁまぁ、褒めても美味しい食事ぐらいしか出ませんよ?」
美味い食事は出すんだなと思いながらも、聞き流し、気になった事を聞いてみる。
「母さん、それより大規模なゴブリンのコロニーって何ですか?」
「あらあら? 久しぶりに母さんにあったのに、母さんの話よりゴブリンの話が聞きたいの?」
昔から母さんには口では絶対に勝てないので、こうやって揶揄いはじめた場合は、さらっと流して兄さんたちに聞いた方が早い。
「それでファイン兄さん、大規模なゴブリンのコロニーって何ですか?」
母さんが泣き真似しているが、突っ込まずに流しておく。
ちらちらこちらを覗き見ているから、泣いてないのが丸わかりなのだが……。
そして、その辺りの事をよくわかっている兄さんがちゃんと答えてくれたのだが、その内容はあまり楽しいものでは無かった。
「この街の東に広がっている『
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