【第11話:鬼】
パーティーを組むことになったオレとユイナ。
最初はちょっと変な子だと思い、あまり関わり合いにならないようにと思ったのだが、事情を聞いて放っておけなくなったと言うのも事実だ。
異世界から一人この世界に呼び出され、帰る事もままならない状況と言うのは、どれほど心細かっただろうか。
しかも、同じく異世界から呼び出された仲間からは見下され、あげくは勇者同士の争いに巻き込まれ、逃げるように旅をしてこの街に辿り着いたのだ。
オレには想像もつかない苦しみの連続だったに違いない。
正直言ってパーティーを組みたいと言ったのは、話の流れで思わず言ってしまった言葉だったが、今はパーティーを組むきっかけになったし、良かったと思っている。
「トリスさん。この世界にきてからのボクの事はだいたい話したけど、その……良かったらトリスさんの話も聞きたいなぁ~なんて……」
少し考え事をしていると、そう言ってオレの話をせがんできた。
「ん~、話すのはかまわないんだが、とりあえず飯でも食わないか?」
「あ! そう言えば、ボクもお腹ぺこぺこで……!?……」
ユイナが嬉しそうにそう答えた瞬間、可愛らしい「くぅぅぅ」という音が静かな室内に響き、ユイナはみるみる顔を赤らめていく。
本当によく赤くなる子だと内心苦笑しながらも、肩をすくめて俯くその可愛らしい仕草にドキリと胸が跳ねる。
「そ、そう言えば、宿に入ってきた時からお腹空いたとか言ってたな。さっそく飯にいこうか」
このあと、「あらあらあら~」と好奇心全開のバタおばさんに、変な勘違いをされながらも、二人で美味しいご飯を食べたのだった。
~
翌朝、日の昇る前に起きたオレは、宿の裏庭で朝の日課となっている鍛錬を済ませると、朝一番の時の鐘に合わせるように食堂に向かう。
「バタおばさん、おはよう」
裏口から宿に入ると、忙しそうに食事の準備をしているバタおばさんがちょうど調理場から出てきたので、お互い挨拶を交わす。
「あらぁ? 随分早いわねぇ。悪いけど、朝ごはんはもう少しかかるのよ」
一応、朝一番の時の鐘から朝食が食べれると聞いていたが、別に急いでいるわけでもないので、問題ないと了承の返事を返しておく。
「ぜんぜん構わないよ。日課の鍛錬をするのに早起きしただけだから。あ、ここで待たせて貰っても?」
「もちろんさ。アーグル茶でも飲んで待ってておくれ」
アーグル茶はこの地方の名産にもなっている紅茶の一種で、独特のコクがあって昔から好きで毎朝飲んでいた紅茶だった。
「ありがとう。今日も飲めるとは思ってなかったから嬉しいよ」
そんな会話をしていると、2階から扉を開く音と共に何かをぶつける音が聞こえてきた。
「きゃっ!? いった~い……」
声からして、どうやらユイナのようだが……。
暫くして二階からユイナが降りてきたので、やはり間違っていなかったようだ。
「あ、トリスさん、おはようございます! いつもこんなに早いんですか?」
「おはよう。朝の鍛錬があるからな。ところで……大丈夫か?」
そこで自分の声がここまで聞こえていたのに気付いて、朝から頬を朱に染めるユイナ。
「ぼ、ボクの声、聞こえてたんですね……。だ、大丈夫です。ちょっと躓いただけなので……」
たぶん躓いたんじゃなくて、転んだんだと思うが気付かないふりをしておこう。
ちょっと目を泳がせながらも、自然にオレのテーブルの席に着く。
すると、すぐにバタおばさんがやってきて、アーグル茶を淹れてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「もうちょっとだけ、朝ごはんは待っておくれ」
オレは、ユイナがアーグル茶の香りを楽しんでから、一口、口にするのを待ってから話しかけた。
「それで、今日は昨日言ってたように、まずは冒険者ギルドに行ってパーティー登録するって事でいいか?」
「うん。でも……ボクなんかで良いのかな?」
カップに口を付けながら、上目遣いで聞いてくる。
内心、小動物みたいで可愛いなと思いながらも、
「それを言うならオレの方だ。オレは普通の冒険者だからな。本当に良いのか?」
昨日も言ったセリフをもう一度繰り返す。
「そ、そんな! ボクは、その、本当に組んで貰えるなら、嬉しい、です」
「それなら問題ないな。ところで、パーティー名は考えたか?」
パーティーを登録するには、パーティー名を考えて記入しなければならない。
なので、お互い最低1個は朝までに考えておこうと約束をしたのだ。
「あ、はい。その、たとえば『
そして「でも、ちょっと恥ずかしいかな……」と、少し視線を逸らす。
「なるほど。悪くないんじゃないか。『ポワントン』とかじゃなくて良かったよ」
「ひゃ!? もぅ~! それは忘れて下さい!」
オレの軽口に頬を膨らませて怒る姿を少し堪能してから、
「冗談だ。悪かったって。ただ……アレを忘れるのは中々難しいけどな」
と、少し追い打ちをかけておく。
「はうぅぅぅ……」
さすがに少し涙目になってきたので、揶揄うのはこの辺にしておこうか。
仕草などが少し妹のミミルを思い出させて、つい同じような扱いをしてしまう。
「そ、そんな事より、トリスさんはちゃんと考えたんですか!?」
露骨に話題を戻そうと、そう切り出すユイナに、オレは寝る前に考えていたパーティー名を思い返す。
「はは。悪かったって。オレも一応考えたよ。『光る黒い髪』とか『冒険者の鬼』、『鬼冒険者』でもいいな。どうだ?」
そう告げた瞬間、ユイナの動きが止まる。
あれ? オレ、何かおかしいこと言ったか?
「……あまり名前を考えるのは得意じゃないって言ってましたけど……言ってましたけど!? 得意じゃないと言うか、壊滅的じゃないですか!?」
「ぐっ!?」
「ねぇねぇ? ボクの髪光ってるんですか? ボク一応女の子なんだけど、鬼扱いなんですかねぇ!?」
「い、いや、そういう訳じゃ……そ、そんなに変だったかな?」
「ものすごく! とっても! そこはかとなく、
こうしてさっき揶揄った分を暫く倍返しされたあと、最初にユイナの言った『剣の隠者』に決まったのだった。
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