【第10話:パーティー】

 顔だけでなく首筋までをも真っ赤に染めて、涙目でオレに縋り付いてくるユイナ。


「どうしてなんですか!? どうしてトリスさんには隠蔽の効果が効かないんですか??」


「ちょ、ゆ、揺らすな!? しかし、そう言われてもなぁ。そもそもその隠蔽の効果ってどういうものなんだ?」


 隠蔽という言葉から何となくは想像できるが、まずは状況を整理してみなければ、正しい判断もできないだろう。


「そ、そうですね。えっと、この仮面を付けると、人が認識できるあらゆる特徴が曖昧になってしまうと言うか、覚えていられなくなる効果があるんです。これは、人に興味を抱かれなくなる呪いの効果を利用したもので、強力な耐呪効果のある結界でも張ってない限りは防ぐのは難しい筈なんですが……」


「なるほど。そう言う事なら、少し思い当たるところがあるかもしれないな」


 魔法の訓練を受けている時に気付いたのだが、オレは呪いの類が一切効かないんだ。


 ただ、効かないのが呪いだけなら良かったのだが、攻撃魔法を除いてほとんどの魔法にも当てはまるのが問題だった。

 それは、その魔法が呪縛や毒、精神干渉などの悪い効果を防ぐだけでなく、回復や解毒、身体強化などのあらゆる補助魔法にも当てはまるからだ。


 このような体質の事を一通り話したところ、


「ん~どうもその体質のせいっぽいですね。それよりも、回復魔法まで効かないのはかなり問題じゃないですか!?」


 怪我したらどうするんですかと、心配そうに尋ねてくる。


「いや、それが、自分で何とか発動させた魔法や、聖女さまに掛けてもらった聖属性の魔法は効果があったので、全く効かないわけでは無いみたいなんだ」


 オレは魔法を扱うのがあまりうまくないのだが、何故か自分で苦労して発動させた魔法や、その昔聖女さまに掛けてもらった回復魔法は問題なく効果が発揮されたので、詳しくはオレも解明できていなかった。


「……トリスさん。トリスさんさえ良ければ、ちょっとボクの鑑定眼の技能でいくつか調べさせて貰っても良いですか?」


「それは別に構わないが、鑑定眼と言うのは?」


 鑑定魔法と言うのはこの街でも使い手が何人かいるが、鑑定眼と言うのは聞いた事がない。

 聞き慣れない言葉にユイナに尋ねてみると、これもまた、アイテムボックス同様に勇者の技能の一つだと言うことだった。


「鑑定魔法と違って、この鑑定眼なら物以外にも使えるし、何かわかるかと思って」


 オレが了承すると、集中する様子もなくユイナは自然にその鑑定眼を発動させた。

 どうやら魔法と違って、簡単に使用する事ができるようだ。


「うそ……まるでジャミングされてるみたいで、鑑定眼が全く使えないです……」


 しかし、残念ながらオレには使えなかったらしい。


 その後も、オレに向かって水属性の回復魔法なども使ってみるが、ことごとく魔法は効果を発揮しなかった。


「ん~ほんとにトリスさんの体質なのかなぁ? 勇者にも全属性の耐性を持った子がいたけど、回復魔法まで防いじゃってるから、そういうのとも何か違う気がするよね?」


 ユイナはこちらが呆れるぐらい、あ~でもない、こうでもないと、一人で真剣に考えこんでいた。


「なぁユイナ。まぁ、オレのことはその辺で良いよ。今のところは困ってないしな。そもそもユイナの相談に乗るって話だったのに、オレの体質の話になってないか?」


 いつのまにかオレのことを親身になって考えているその姿に、少し笑ってしまう。


「あっ……そう言えばそうでしたね。ふふ」


 お互いなんだかおかしくなって、見つめあうと吹き出してしまった。


「その、なんだ。とりあえずユイナがその仮面を付けてた理由はわかったよ。仮面の効果が発動していれば、人前で光魔法を使っても、その魔法の特徴まで忘れるんだな」


「はい。ずっと光魔法を使う時は仮面を付けていれば大丈夫だったので、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ調子に乗ってしまって……」


 オレの前で『謎の少女ポワントン』と言い放った時の事を思い出したのか、顔を真っ赤にして最後はごにょごにょと申し訳なさそうに謝ってきた。


「だから気にするなって。しかし、そうするとパーティーも組めないんじゃないのか?」


「はい……。他の属性は水しか第二位階の魔法が使えない上に、攻撃魔法はあまり威力が出なくて……」


「ん? ユイナの歳なら1属性でも第二位階の魔法が使えれば、パーティーにあぶれる事なんて無いんじゃないのか?」


「え? そうなんですか? でも……」


 話を聞いてみると、どうやら比べる対象がおかしかっただけのようだ。


「そりゃぁ比較する相手がおかしいだろ? 一緒に召喚された奴らも勇者なんだ。その勇者たちとパーティーを組むってことならわかるが、普通に冒険者としてパーティーを組むだけなら、一つだけでも第二位階の攻撃魔法が使えれば十分だ」


「え? そう言うものなんですか……?」


「あぁ。それに、そもそもこちらの世界に召喚されてからまだ半年ほどなんだろ? それを考えればかなり優秀だぞ? オレがパーティーを組んで欲しいぐらいだ」


「え……ボクと?」


 オレがパーティーを組んで……と言った瞬間、俯きがちだった顔をがばっとあげて、縋るような瞳でオレを見上げてくるユイナ。


「あ、いや、その……それぐらい優秀だって話であってだな……」


「じーー……」


 捨てられた仔犬のように瞳を潤ませて、じーーーーーーっと無言で見つめてくるのは反則だろ……。


 と言うか、口で「じーー」って言ってないか……?


「あぁぁぁ!! わかった! その、良かったら一緒にパーティーを組まないか?」


「はぃ! よろしくお願いします!!」


 こうしてオレは、異世界から来たという『謎の少女ポワントンユイナ』とパーティーを組むことになったのだった。


「今、なんかボクに凄く失礼な事考えてなかったですか……?」

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