うさぎとかめ

れもん

第1話


 これは、本当にあったうさぎとかめのお話を少し“今風”に、わかりやすく再現したものです。

みんなが知っているうさぎとかめは少し加工されたものである、ということをこのお話を読んで知ってもらえればと思います。

 そして、それを読んでくださった読者の方々がこれから悩んだり、迷ったり、した時に何かの考え方の足しになればと思います。


 では、本当にあった『うさぎとかめ』お楽しみください。






 むかしむかし、あるところに“うさぎ村”という村がありました。

うさぎ村ではうさぎ達が楽しく賑やかに暮らしていました。


 ある時、三匹の一部のうさぎの中でこんなお話が上がり

ました。


 「ねぇー、お前ってさ、この村で一番足速いじゃん?」

「んー、まぁ、この村全体でするうさぎ村祭りの競走の部では毎年優勝してはいるけどー。」


 うさぎ村では毎年『うさぎ村祭り』というお祭りが開催されていて、このうさぎ──大里たいりくんは毎年その大会で優勝していました。

村で一番、足が速いと言われていたのです。


 「これってさ、ワンチャン、お前動物の中で一番足速い説あるんじゃね?」

「いやー、さすがにそれはきついんじゃないかなー?」


 大里くんと仲の良いうさぎの一匹──龍美たつみくんはいつも突拍子もないことを言ってみんなを楽しませてくれます。

その時も、龍美くんが言った、『大里、動物の中で一番足速い説』でその場はとても盛り上がりました。


 「それな、まじでそれ、ワンチャンあるわ、やってみない?今から会う動物と手当り次第競走してって、大里がそれに全部勝ったら説立証。」

「めっちゃ良いじゃん、それー。企画でやろーよ、大里の挑戦回として。じゃあ次の企画これにしよー」

「決まりだなー」

「まじで俺やるのー?笑」


 実はこの三匹、今話題のMyTuberだったのです。──MyTuberとは自分達が作った動画を気軽に世界に発信出来る動画アプリで始めたばかりだった三匹ですが、“動画が面白い”と、一気にバズり、人気も出て、まさに“絶好調”なのです。

 ですが、一気にバズったせいで今後の自分達の伸びしろにあまり自信がなく、最近はコメント欄のちょっとしたアンチにも、とてもナーバスになってしまっていました。

 だからこそ、パンチのある企画を考え込んでいたのです。


大理くんがあまり話に乗らないまま、龍美くんと、もう一匹のうさぎ──夏都なつとくんが話を進めてしまい、次の企画の見出しは『うさぎの大理、動物の中で一番足速い説』という事で決まっていきました。


 「ねぇ、見て見て、あれ。」

「ん?なになに?」


 そんな話をして盛り上がっていると、夏都くんが村の入口の門の前でかめが待っているのを見つけました。──和二郎くんでした。

 うさぎ村の隣には“かめの里”という里があります。

かめは足が遅い、という話は動物界ではとても有名でしたが、和二郎くんは里でもダントツで足が遅いと言われていました。

 そこで、和二郎くんに交渉をして撮影をさせて貰えることにしました。和二郎くんの方も二つ返事で許可をしてくれたので実践は次の日曜日、ということで話は終わり、その日は解散となりました。




 次の日曜日。四匹はかけっこの会場となる丘の麓に集合しました。

 あいさつ、企画紹介が終わったところで早速企画に入っていきます。


「それでは、よーいドーン」

 

龍美くんの掛け声で一斉に走り出していく二匹。スタートダッシュの時点ではやはり、うさぎ──大里くんがリードです。


 「なんだ、やっぱり結構余裕だな。てゆか、まだまだ全然来ないじゃん。」


 一人、走っていても追いつかれる気配が全くしなかった大里くんはスタート地点からゴールまでの中間地点辺りで少し休憩をすることにしました。


 「まぁ、追いつかれそうになったら走ればいいか。あ、MINE着てる。」


 涼し気な木の下で休憩をしようと腰を下ろし、ケータイを触ってメールを返しているうちに動画編集の疲れもあるのか、段々と眠くなって、寝てしまいました。






 一方、その頃のかめ──和二郎くんは。


 「夏都。和二郎って意外と頑張ってる感あるよね」

「それな、てゆか、大里もう見えないし。」

「どこ行った?て感じやん。まぁもうゴールしてるんだろうけどな。」


 撮影をしていた二人は和二郎くんの後ろからゆっくりとカメラを回し、和二郎くんを馬鹿にしては笑っていました。






 しばらくすると、和二郎はとうとう大里くんが休憩している中間地点辺りまで走りました。


 「かめってこんなに頑張る生き物なんだねー。どうせ負けるのにね。」

「だってもう大里ゴールしたでしょ?」

「多分ね。だってここまで来て見えないってことはそうでしょ。」

「負け確やーん」


 和二郎くんの走りに夢中になっていた二人は中間地点辺りの木の下で寝ていた大里くんの事に気が付かずに和二郎くんを馬鹿にしては笑って通り過ぎてしまいました。






 そして、ついに和二郎くんがゴール直前。


 「おい、もうちょっとでゴールだぞ。」

「かめだって頑張ればこんなに時間はかかるけどゴールはできるんだねー。おれ、絶対途中で止めちゃうと思ってたもん。」


 二人が和二郎くんを馬鹿にしている間に、ついに和二郎くんはゴールしました。


 「はぁ。長かったけど頑張ったな。あれ?大里さんはどこだろう?」


 ゴールした和二郎くんは先にゴールしたと思っていた大里くんを探しました。

 一旦ここでカメラを置いた二人も大里くんを探しましたが、周辺を探してもいる様子はありません。

 すると。


 「はぁ、はぁ。ごめんごめん。待って、和二郎くんのが先にゴールしちゃった?」


 寝ていた大里くんは和二郎くんが通ったことも気付かず寝過ごしてしまったのです。

 三人は撮影後、動画の編集をどうしようかと悩んでいましたが、面白おかしく動画を編集し、うさぎの大里が勝負に負けた、として動画を上げてしまいました。

 それが火種となり、三人の動画は激しく炎上。


『うさぎがかめに負けるなんて。』

『かめに負けるなんて恥晒しもいいとこよ』


 辛い言葉が投げられ、アンチでいっぱいになったコメント欄。三人は逃げるようにMyTuberに辞めました。

 しかし、村からの仕打ちは酷く、負けた大里くんをうさぎ村から追い出しました。

大里くんは『寝なきゃよかった。俺がちゃんと勝負していればこんな事にはならなかったんだ。』

と、毎晩毎晩一人森の中で自分を責め続けました。

 すると、偶然こんな話がされているのが聞こえてしまったのです。


 「明日、うさぎ村でうさぎ狩りに行ってくるわー。」


 それはオオカミの話し声でした。それを聞いた大里くんは追い出されてしまったけど大事な人がいっぱいいるうさぎ村を救おうと考えました。

 大里くんはオオカミをおびき出して崖から落としてしまおう、と考え、その為の作戦を練りました。


 次の日。オオカミが村へ襲撃に行く直前に大里くんは動画の企画で使った自分そっくりのドローンを利用して上手くオオカミを崖に誘き出し、崖のギリギリにオオカミが来たところで後ろから蹴ってオオカミを崖に落としました。

 その事はうさぎ村で大変讃えられ、大里くんは手のひらを返したようにうさぎ村で英雄となりました。






 そして、その頃の和二郎くんは。

あの動画が上がって以降、うさぎ村では大里くんへのアンチが酷かったのに対し、かめの里では和二郎くんの活躍はとても評価されていました。

 和二郎くん自身もうさぎに勝ったことを心から誇りに思って、勤めていた会社を辞め、“頑張ればなんでもできる”として塾講師を始めました。


 「頑張ればなんだってできるんだよ。みんなにはたくさんの『可能性』があるんだから。」

「かのうせい?」


 子供達から慕われる事は今まで馬鹿にされることが多かった人生の和二郎くんからするととても楽しいもので毎日が生き生きとしている感じさえしました。

 そんなある日、子供達が言いました。


 「ねぇ、本当に頑張ればなんでも出来るのー?」

「あぁ、なんだって、どんな事だってきっと出来るさ。」

「私たちね、この魔法使いさんみたいにお空が飛びたいの。出来るかな?」

「あぁ、絶対にできるさ。」


 子供達から慕われる事に優越感を覚えた和二郎くんは子供達から言われる事に否定をすることはなかった。


 「じゃあ、お空飛んでみてー?」

「僕がかい?うん、良いだろう、僕がお手本として飛んでみようか。」

「うん。」


 子供達に勇気と希望を与える為、和二郎くんは空を飛ぶ事に挑戦しようと、鷹に頼みました。


 「僕をずっとずっと空高くまで連れていってほしいんだ。そして僕が離してって言ったらそこで僕のことを離して欲しい。」

「俺は別に構わないけど、大丈夫なのか?本当に。」

「平気さ。頑張ればなんだって出来るんだからね。お願いするよ。」


 そして、和二郎くんのお願い通り、子供達が見守っている中、和二郎くんを咥えた鷹は、ぐんぐんと空高く登っていきました。


 「ここで離して。」

「健闘を祈るよ。行くぞ」


 子供達からも見えなくなった時、和二郎くんは鷹にそう言いました。

鷹は思い切って和二郎くんを離し、和二郎くんが頑張って空を飛ぶ事に期待しました。


 しかし、現実はそうも上手くはいかなかったようです。

 鷹に離してもらった和二郎くんは頑張って飛ぼうとしたのですが、翼も無い和二郎くんには頑張っても空を飛ぶ事はできなかったのです。

 そのまま加速するように落ちていった和二郎くんは強く地面に叩きつけられ、粉々に砕け散ってしまったのです。






以上、本当にあった『うさぎとかめ』でした。


















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