第12話「白河達の救援に向かう」


 白河と久野、二人の職場でもある高層ビルは警察と役所が一体になった雑居ビルである。三十階までは同じフロアだが、そこから先の最上階、四十階までは二つの建物に分かれている特殊な造りをしていた。


 油連合は一階を占拠し、各エレベーターで一気に上り詰める。棟の分かれ道になる三十階のロビーへ全員が突入してから、銃を構えたまま久野は言った。


「変だな」

「そうですね」


 背中合わせに銃を構える白河も周囲を眼球だけ動かしながら確認し、同意する。

十分も経っていないが、このビルにはラーメン取り締まり部隊がいる。戦闘に対し特殊訓練を受けている彼らにしては

 そして何より、普段なら溢れかえる人の波も見当たらない。口にはしないが、普段のこの職場のをしらない他の同志達も何かがおかしい事に気付いているだろう。戦場にしては、緊張感がない。


「とりあえず時間がない。手筈通りA棟は僕の班、B棟には白河班が突入する。皆、武運を祈るよ」


 全員が銃を構えたまま久野へ敬礼し、綺麗に二つへ分かれて三十階から上を目指す。ここからは待ち構えられている可能性があるので、エレベーター破壊してから階段で上を目指す。


「久野っ」

「ん?」


 別れ際、白河は久野を呼び止めた。前のめりになっていた体勢を戻し、上半身だけ相手に向ける。


「死んだらラーメンは食べられませんよ」

「分かってるよ。でもそれはお互い様。バイバイ、白河」


 久野は口を歪ませたあと、隊を先導して階段へ進んだ。頼りに見える背中が小さくなり、妙な焦燥感に煽られる。


「白河さん」

「……はぁ、すみません。行きましょう」


 嘆息の後、自らの顔を軽く叩く。

久野に与えられた、まだ名前も覚えきれていない部下数名を率い、白河も久野と反対方向へ素早く駆けて行った。


       ※


 久野は階段を駆け上がりながら、未だに妨害がない事に不安を隠せずにいた。突入してから既にニ十分は経とうとしているが、相手の動きがまるでない。これは普通に考えて作戦がバレていた可能性が高く、その場合何かの対策を練っている事は明確だ。


 秘密結社の同志達の安否も勿論だが、ラーメンの行く末、そして白河の事が頭を過る。二つの塔の内どちらにターゲットが居るか分からない故に仕方がなかったが、戦力を分散した事を少し後悔していた。


 考えているうちに、最上階へ到達する。ここには仕切られた部屋が一つしかなく、大きな柱が三本あるだけで見通しの良いただのフロアになっている。

 開けたこの階は隠れる場所もなく、戦場になるとしたらあまりにも部が悪い。下に逃げるとしても狭い階段で待ち伏せられたら終わりだし、上に逃げようにも屋上はヘリポート用に隠れるものがない。


 ここまで何もないと言う事は、ここで何かあると言う事だ。だがここまで来て後に引くことはできない。辺りを警戒しながら、久野を含む同志達はスローモーションのようにゆっくりと奥の部屋へ進んだ。

 部屋の前で久野は退院に囁く。


「中は敵だらけだと思え」


 同時に、指を五本立てて、それを順番に折っていく。

 普通なら中に敵がいる状況など期待したくないが、今ばかりは居て欲しいと願う。何故なら、もしこっちがハズレだった場合、白河の方がだからだ。

 当たりならば武装した敵がいる、つまり、危険なのだ。白河なら乗り切れるだろうという自信はある、が、いざとなるとやはり心配だ。巻き込んでおいて何御考えているのだろうと、マスクで隠された嘲笑染みた顔を作ってすぐに、久野の最後の指が綺麗に畳まれた。


 ドアを蹴破って部屋の中に入る。久野班が八方に銃を向けるが、銃口の先には誰も居なかった。

 静かな部屋に久野の舌打ちが響く。


「……B棟に急ごう。白河達の救援に向かう」




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