第10話 作戦開始
作戦当日。
白河と久野、香川、ウェンディ、土美濃はそれぞれの兵隊を率いながら別行動を取っていた。
久野の作戦はシンプルな物だったが、それ故に強力だ。
彼は先日香川に対し「政府と同じことをする」と言った。それは「弾圧」であり、それをやられたら困るのは何か。弾圧の目的は世論を動かす事だ。「ラーメン禁止法のせいでラーメンテロリストが行う報復により、日本国民が困る事」を行う必要がある。
虐殺では意味がないし、やりたくもないし、恐らく何も変わらない。食に関する事で弾圧しなければならない。
そこで久野は言った。
※
「――日本中のファミレスを片っ端から潰す」
「ファミレス……。外食産業の、メインですか」
白河が眉を顰める。それは他の幹部もそうだった。
「そう。外食産業で覇権とも言っていい各社のファミレス店。それが大量になくなったら国民はどう思う?ラーメン派ウザいくらいじゃ済まない、こんなことが再び起こるなら、行き過ぎた健康増進法に声を上げる者が必ず出てくる」
「久野、お前日本にどれほどのファミレスがあると思っている。警察やラ取が動くまでの僅かな時間、微々たる損害じゃないか?」
「香川、油連合はこの工場の人員だけじゃないんだぜ?全国数十万の規模だ。ファミレスが密集している地域にランキングを付けて、日本各地に同志を派遣、同時刻に一気に奇襲をかける。何も建物全て破壊する訳じゃない、厨房だけを破壊して営業停止状態にすることが目的だ。それなら少数で分散できるし、速やかに複数の店を潰せる。人も絶対に殺さない」
久野が用意したお粗末な資料に目を通しながら、香川は険しい顔で唸る。香川が言いたいであろうことを察し、白河が代弁した。
「上手く行くでしょうか」
「いや、これ自体は上手くは行かないよ。恐らく数時間で鎮圧される」
「は?」
自分で建てた作戦を、自ら否定してみせる久野。その矛盾した行動は幹部をさらに困惑させた。
「で、これだけのことを起こすんだ。世論は確実に動く。そして、この作戦の首謀者でありラーメン好きを脅して従えさせた僕だけが裁かれる」
「どういう意味ですか、それは」
ウェンディや土美濃は目を丸くしただけだが、白河と香川だけは幼馴染のその発言に口を出さずにはいられなかった。大事な友人が崖の上から落ちそうになっている所に手を差し伸べない者はほとんどいないだろう。
「この事件の後、世界に爪跡を残すのは僕だけ。皆は僕の「被害者」として関係なく日常に帰れる計画にしてある」
「ふざけるな。納得できる訳ないだろう」
「僕の我儘だ。納得してもらう。もうそれで算段は進めてあるしね――」
※
その後、白河と香川から何度も作戦を変更するよう抗議を受けたが、久野の決意は変わらなかった。「美しい友情パワーだ」と言う茶化すような土美濃の言葉に白河が静かにキレた所で、その作戦会議は強制的にお開きとなってしまった。
現在、それぞれがファミレス密集地域に分散する中、白河と久野だけは同じ場所に潜伏していた。
場所は健康増進局が入っている高層ビル。本日、最上階には厚労省の重役やこの法案を無理やり通した政治家などが「違法ラーメンを食べる為」に集まっている。
「僕らが最重要ミッションだからね。各地の努力を無駄には出来ない」
「分かっていますよ」
白河は唇を尖らせて答えた。不服であるのは久野が犠牲になる案を強行したからだ。
特訓をした精鋭たちに合図を出すと、彼らは実弾で威嚇しながら素早く侵入する。慌てふためく市民を後目に、妨害してこようとするまだ数の少ない警備を振り切り、二人は自らの職場へと強行した。
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