これが戦争?

「北の者たちに申し述べたき事あり!貴殿らはっ」

「貴殿らぐわっ!」

「お前たちなんかに支配されたくない!」

「おま、いや貴公らのその素朴すぎっ!」

「ちょっと田中さんの長男さん、我々はあくまで偵察」

「オレはこの連中をもうちょっと相手にして来る!お前は早く南のやつらと出くわしたって事を下の人たちに伝えて来い!この南の山はオレらにとっても不慣れなんだからな!」




 山からかけ下りて来た山本さんの次男とわたくしたちが合流した頃、田中さんのご長男は既にかまで四人ほど南の人たちを殺していたようです。




「敵の数はどれだけだ」

「見た所、十人ぐらいかと」

「そんな少ないはずはない、正田義美って言う人が命令を下したのであればそんな少ない数で来るはずはない」

「百人ですか?」

「とんでもない、千人は下らないでしょう」

「そのしょうださんって言う人は南の村、いや市の中で一番えらいんですか?」

「いいえ、市の中で一番偉いのは市長なんですが、正田義美ってのは教育委員会の委員長なんです。あの黒辞書を作ったのも彼女なんです。

 黒辞書の前には、市長を含め誰も逆らう事ができません。逆らえるとすればまだ物を知らない幼い子どものみです、いや子どもにも絶対に使ってはならないと親は教えねばならず、それに幾度か違反すると地域の住民に疎外するようにお達しが来て」




 よくわかりませんが、しょうださんって言うのが相当に強い力を持った人だと言うのはわかります。それでマコトさん、山本さんの次男が持って来たのは何ですか?




「ああこれですか、南の連中が構えていた物ですけど、田中さんのご長男から持ち切れないから持って帰ってくれって言われて」

「マシンガンですね。銃の一種で、ああ銃って言うのは武器の一種で」

「それでわたくしたちを殺そうとしていたと言うんですか」

「ええ、あるいは見せるだけだったのかもしれませんが。力の差を見せつけて、大人しく従うのであれば撃ちはしないと」

「撃ち方を教えてください!すべては、この村と子どもたちを守るためです、使えるのであれば使いましょう!」

「わかりました……」


 マコトさんはわたくしたちに使い方を教えてくれました。この武器が村を守るために使えるのであれば、使わない訳には行かないでしょう。子どもたちのためにも、やるしかないんです。








 マコトさんに使い方を教わったわたくしたちがよそ様の家に隠れていると、眼鏡と言う物を顔にかけマコトさんと同じような服を来た女性が一人歩いて来ました。




「我々、この地の者たちに申し述べたき儀あり。この地により豊かな稔りをもたらし」


 その女性が何を言っているのかはわかりませんが、とにかくこの村と子どもたちをおびやかす存在である事はわかっていたので、わたくしは彼女に向けてマシンガンとか言う銃の先っぽを向け、引き金と言う物を引きました。

 するとどうでしょう、その女性に金属の弾が当たりそしてあお向けに倒れ込みました。なんとすごい力でしょう。


「おお、なんという大胆な…!いよいよここまでか」

「わかった、今の卑劣なる暴挙っ」


 ここで、また銃の音が鳴り響きました。先ほどの事で銃と言う物の威力と放つ音の大きさはわかっていたのであわてて身をすくめると、草みたいな色をした服を着た南の人が倒れていました。

 背中からは血が流れ、土を赤くそめています。


「我々は正しき秩序の元に、この地をより豊かにかつより正しき地にするがためこうしてやって来た。我々は決して秩序を踏み外した者を逃す事はなく、それゆえに安全かつ」

「ふざけるな!」

「あっ隊長っ!」


 先ほど男の人を後ろから撃ったと思われる隊長と言う人に向けて、いつの間にか戻って来ていた田中さんのご長男が銃を撃ちました。

 それにしても銃と言う物は金属の玉をいっぺんに何個も出せる物なのですね、正直めちゃくちゃうるさいです。その結果、隊長と呼ばれたひげを生やした人とその人に向けて声をかけた人が倒れました。


「そうやってグダグダ言ってる間にシカやイノシシに逃げられたらどうすんだよ、飯が食えないぞ!」

「ええい、もはやこれまでっ…!指導、開始っ…!!」


 その指導と言う言葉とともに、南の人たちは銃を構えたままあちこちを向き始めました。


「行くぞぉ!」


 そしてその動きに答えるかのように田中さんのご長男は銃を撃ちました、わたくしたちも銃がある人はそれを撃ち、ない人はかまや山で使うおのやなたで南の人たちに挑みかかりました。


「良き次の世へっ…!送って…差し上げると…述べているのに…この……」


 わたくしも、田中さんのご長男も、鈴木さんも、山本さんの次男も、みな必死でした。村の中の男と言う男たちは、みんな南の人たちを殺す事だけに集中していました。


 わたくしはマコトさんから聞かされた南の人たちの支配する世界に対する不安からでしたが、他の方たちがどうしてあそこまで必死だったかはわかりません。


「ものすごい血の量だ…」

「こんなに多くの血を…うえっ…」


 一方で南の人たちは銃を持ちながらもふるえるばかりで何もしようとしません。わたくしは狩りなど一度もしたことがなく肉も米と引きかえに手に入れる物でしたが、それでも動かない相手など簡単にたおせる事は稲でよくわかっています。

 まったく、南の人たちはなにをしたいのでしょうか。戦いになる事がわかっていた以上、血は流れないはずがないはずなんですけれど、どうしてこんな風にあわてふためいてるんでしょうか。

「もう駄目だ、こんな野蛮人っ…」

 にもかかわらず、やばんじんとか言う聞きなれない言葉を口にした味方と思われる方を撃つのだけは早いですね。そう言えばさっきも似たような事がありましたね、一体どうしてなんでしょうか?




「この様に新たな可能性を秘めし者たち相手に、まだ時間が必要なのですか」


 そんな中、先ほどの女性と同じような格好をした女性がまたやって来ました。ただし少ししわが多く、少し年かさに見えます。




「正田さん!」

「そうか…お前があんなふざけた決まりを守れって言って来た張本人か」

「私の名前は正田義美、教育委員会委員長を務めております。皆さんのような新たな可能性を秘めし者たちの強引ぶりには実に感心しますわね」


 正田義美と言う名前、いや正確に言えば正田と言う姓と義美と言う名前を持った女性はわたくしたちを鋭い目つきでにらみながら歩み寄って来ます。




「うるさい、そんなにあれもだめこれもだめと思いながら生きていけるかっての!大方私かたわた」

「あっ田中さんのご長男!」


 おおかたわたした、そこまで田中さんのご長男が言うと今まで震えていた南の人たちが一斉に田中さんのご長男に向けて銃を放ちました。田中さんのご長男は全身に弾を受け、これまでの南の人たちと同じように体から血を吹き出し、そしてそれきり動かなくなってしまいました。




「我々はかように人の道を外した者を、次の世にて良き者になれるように生まれ変わらせるべくこうして来ています!我々の誠意と厚情の対するこの仕打ち、是認する事は」

「正田義美!」




 わたくしたちが田中さんのご長男を撃った相手を撃ち返した時、銃の使い方を教えてくれた後は村尾さんと一緒にいたはずのマコトさんがこの戦いの場に飛び込んで来ました。

 手には田中さんのご長男が持っていた銃が握られており、その銃を正田義美と言う人の周りの人に向けて撃ちまくっています。


「清野誠!なるほど、全てあなたが計画を…!」

「そうやって呼ばれるのも二年ぶりですか」

「皆様、首謀者たる清野誠を確保しなさい。抗うのであれば」

「首謀者などいない、いるとすればあなただ!」

「他者の心痛を顧みない言葉を使った事への正当なる処置に対しての、不当な恨みを第三者である彼らをもって晴らそうなど、全く人道に悖る行為であり正当化する事など不可能と言う事がまだわからないとおっしゃるのでございますか!?

 あなた方に申し上げます、かように道を外した者の手駒となってその命を散らす必要はどこにもありません。今すぐその男を次の世へ」




 その時、わたくしは正田義美さんの左足に向けて銃を放ちました。弾は正田さんの足に命中し、正田さんはわたくしが撃ったのとは逆の右足を折り曲げながらくずれ落ちました。


 わたくしが銃弾を放ったのか、それはわかりません。マコトさんを守りたかったのか、それとも正田義美さんって言う人の言葉に納得できなかったからか。でもとにかくその時わたくしはこれまで撃って来た他の南の人と同じように、正田義美さんを撃ったのです。


「クッ…あなたたち、今すぐ…この方たちを…仲間たちの為に…」

「反撃が来ますよ!やらせる前に!」

「マコトさん、その銃ってのは何度でも撃てる物じゃないんでしょ。もうちょっと正確にねらって」

「こうやって闘志が旺盛なる姿を見せる事が、結果として相手の戦意を削ぎ戦いを早く終わらせる事になります!」


 確かに、マコトさんのおっしゃる通り南の人たちはこっちに向かって来ませんでした。代表であるはずの正田さんがわたくしに撃たれ、そしてその正田さんがわたくしたちを撃てと命令を出しているのに……あれ?命令?


「どうしました、私の依頼が、依頼した私に受け入れられるに足りない落ち度があったとでも申しますか、答えて下さい…!」


 正田さんと言う人の口調はとても命令と言うような物ではなく、お願いと言うべき物でした。狩谷さんから以前聞いた事があるのですが、狩りの時はもっとはげしく力強い言葉で指示を出す物だそうです。

 今目の前にあるのは狩りよりももっとはげしい物のはずですから、もっと言葉がはげしくても問題ないと思うのですがねえ。


「こいつらなんでこんな臭い中でも平気で襲いかかって来るんだ!?」

「うえっ、私はもう駄目だ」

「ぜ、全員撤退!」

「あっ、待ちなさ…いっ…!」


 それと関係があるのかどうかはわかりませんが、南の人たちが突然逃げ出してしまいました。多くの仲間の方の死体や、ひざを付いている正田さんを残して。しかし、南の方がおっしゃった通りずいぶんとくさいですね、これが血のにおいですか?


「硝煙って言う、銃を撃つのに使う粉の臭いもあります。しかし改めて見ると」

「この美しき、未知の魅力を秘めた大地を……あなたの筋の通らない、恨みの……」





 もう戦いは終わり……ましたよね、正田さん?でしたら早くあなたのふるさとへお帰り下さい、と言いたいんですけどその足じゃ無理でしょうね。助けてもらおうにも南の人たちは一人もいませんし……全く冷たい人たちですよねえ。

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