第八夜


 私は朝、未来が目を覚ます前に家を出た。


 仕事には行かず、あてもなく歩いた。

 街は、いつもと変わらない。


 結局、行く場所もなく、術式の発動地点、——街の廃ビルの屋上へ向かう。



 ここが、私と未来の、はじまりの場所、


 そして、終わりの、場所——



 私が一年かけて滅亡術式を配置し、発動させようとした夜、彼女はこのビルから身を投げようとしていた。

 それも、私の目の前でだ。


 私は言った。自ら命を絶たずとも、いずれ世界は終わる、と。

 それでも彼女は止まらず、身を投げた。


 その手を、


 私はその手を取った。



 術式の発動タイミングを失った。失敗した。

 たった一人の少女を救ってしまったが為に、私は使命を全う出来なかった。


 私は彼女に全てを話した。

 再び一年をかけ、術式を施し、世界を消すと。

 すると、彼女は、未来は笑顔で言った。


『じゃ、それまで、未来を死なせなかった責任をとって。未来を、飼ってください』


 私は、未来を飼うことにした。



 その後、二人で色んな場所へ行き、その都度、術式を施していった。

 そして雨の降る運命の日、私は再び使命を放棄してしまった。未来と、別れたくなかった。



 そして今日も、


「雨……」


 あの日と同じように、雨が降る。




 ……時間だ。

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