第153話 現象使いへの尋問
自称革命者のバスケット会場襲撃事件の翌日、イネちゃんは休む暇なく病院の建設をして警備を増強し、更に昨日捕まえた共犯者の前にヒヒノさんと一緒に立っていた。
「さて、あなたたちには階級と役割以外の個人名は存在していないことは知っているので、あなたはあのテロにおいてどういう役割を担っていたのかを聞かせてもらっていいかな」
そしてなぜか尋問の進行役はヒヒノさんではなくイネちゃんである。
どうにも戦闘中のようにテンションが上がっている時じゃないとあまり思考が攻撃的にならないようで、尋問とは言えないような口調でご飯を食べさせようとしてしまったようで、病院のベッドを化学繊維で無理やり寝心地がいいように仕上げて休憩しようとしていたイネちゃんが捕まったわけである。
スーさんたち夢魔の人でもよかったはずなのだけど、夢魔の人たちは治療があるということでやっぱりイネちゃんが最適となったらしい。
「殺せ」
「今回のテロについて全て聞かせてもらったあとで考えるよ。それであなたはどういう役割だったの?」
「殺せ」
うーん、壊れた音楽プレイヤーみたいに同じ言葉が返ってきた。
「さて……素直に答えてくれない以上はこちらとしても不本意ながら色々としなきゃいけないんだよねぇ。大陸の尋問のやり方は痛いのと気持ちいいのと2種類あるけど、残念なことに後者はあなたたちが起こしたテロの被害者の治療をしている方々ができることで、ここにいる2人にはできないから痛い手段しか取れないんだけど……」
「殺せ」
「まぁまぁ、とりあえず死ぬっていうことがどういうことか少しづつ理解していけばいいからさ、もしかしたら死にたくなくなって話したくなるかもしれないし」
そう言いながら右手の人差し指にナイフを少し差し込んで一気に爪を削ぐ。
……普通ならここで痛みで叫び声が聞こえるのだけど、尋問中のこの男は下唇から血が出るくらい強く噛んで耐えている。
「この辺も覚悟済みかぁ……」
滅びた世界では割とポピュラーな拷問手段だったようで、相手の想定内だったようだね……となると少し困った、爪を剥ぐっていうのは割とライトな拷問手段である以上ちょっとイネちゃんの知識範囲だと忌諱感のあるガチめな奴しか思いつかない。
ちなみに拷問知識はムツキお父さんの蔵書を読んで身につけたので、昔の地球で行われていた拷問方法や、現代で行われる血を流さないタイプだけど爪を剥がされるより堪える奴も知っている。
「うーん、ヒヒノさんどうしよう。多分両手の爪全部剥いでもこの人耐えるよ」
「えぇ……私1枚剥がれるの見ただけでケチャップとか使えないなぁとか思ってたのに……」
ヒヒノさん繊細……でもないか、普通拷問とか間近で見たらこんな反応するのが当然で、イネちゃんみたいにガッツリ実行できちゃう方が珍しいわけだし。
「まぁ……放置できる拷問方法に変更します。誰か監視してないとちょっと本格的に精神やら命やらが危なくなるのでイネちゃんは残りますけど」
「それって……どういう?」
「目と口を開いたまま固定して強めの光源を目の前においておくだけですよ。これがダメなら張り付けにして自動くすぐりか水車に張り付けて水責めですかね」
「くすぐりって……拷問?」
「よほどの無感症でもない限り呼吸ができなくなるので。笑い死にって広義で言えば窒息ですからね」
「やだ……イネちゃん怖い」
「誰かやらなきゃいけないですし、知識持ってるのがイネちゃんだけだから消去法でやってるだけですよ……。まぁ本当、1番手っ取り早いのは夢魔の人に尋問してもらうのがソフトで平和なので、皆の治療が終わったら交代しますし」
しかしまぁ、電力系をここに準備しないといけないのか……どんどんイネちゃんのお仕事が増えていくね。
「……乗っ取れ」
こちらがあれこれ雑談していると、男が痛みに慣れたのかそう呟き……虚空からミスリルが出てきてイネちゃんとヒヒノさんに絡みついて口や鼻から侵入しようとしてきた。
勿論イネちゃんにもヒヒノさんにもミスリルによる肉体支配は無意味で、ヒヒノさんはすかさず自分の周囲に炎を纏ってミスリルを瞬間で蒸発させて防御していた。
「片方だけでも!」
「……いや、イネちゃんにそれ逆効果すぎだよ?」
男の叫びにヒヒノさんが呆れた口調で教えてあげたところで、イネちゃんはミスリルを制御して先ほどヒヒノさんに言った拷問器具を生成していく。
「うん、まぁ……ミスリルも金属だし。というか鉱物資源を量産したものを運用するならこっちの勇者の力を正しく把握しておくべきだと、イネちゃんは強く思うな」
「化物め……」
「化物結構、異世界の異文化って時点で常識とかそういうものがまるで違うし侵略者にとっては相手の世界を守っている実力者は皆化物だろうからね。社会基盤をまるまる破壊する前提なあなただって、被害者からしてみれば立派な化物ってことは理解しておいてね」
異なる文化どころか異なる世界が衝突した以上、その程度のそしりとかは大前提だからね、化物と呼ばれるってことはこっちが仕事できていることになる……よね?
「それじゃぱぱっと取り付けちゃうからねー、お目目とお口は大きく開けてねー」
「可愛く言ってもえぐいからね?」
「でも止めないんでしょう?」
「私は尋問とかあまり詳しくないから。ただ尋問は必要な状況だし多少は仕方ないのかなって」
詳しくないけど非人道っぽいから止める。ではなくて詳しくないけど今現在、この人に尋問は必要なのは理解しているから止めないっていうのも結構珍しい気がするけど、ヒヒノさんって思ったこと口にしちゃうタイプの人だしガッツリ本音だろうってのがわかるのがなんとも。
「風と水よ!」
こっちが会話しているところに男が叫んで、今度は
「ほら、早くしないからだよ」
「いやぁ……でもある意味これでいいんじゃないですかね、自分の力ではどうあがいても不可能だって理解させるのって全部試させた方が手っ取り早いですし」
まぁ当然ながらヒヒノさんは自分の周囲にバリアでも張ってるのかって感じに自分に迫ってきているものを全て焼失させているし、イネちゃんに関しても足を地面と同化させるだけで吹き飛ばされない上に酸素も地面から供給できるので服が切り裂かれたりしないか心配程度の攻撃でしかない。
「それじゃあそろそろ観念してつけちゃいましょうねー」
言葉にしなきゃ発動できないわけじゃないけれど、とりあえず先に口を開いたまま固定する器具をつける。
「んんー!んー!」
男の唸り声の直後に強い光が発生したものの、何かしらしてくるのは予想出来ていたので目の器官を完全保護して眼球のところで強い光をカットできるようにしておいたのでノーダメージ……。
「メガーメガー……ふぅ痛かった」
ヒヒノさんがなんというか最近キュミラさんができていないギャグっぽい行動をしてるし……すぐに指パッチンして治してるのがキュミラさんとは違うけど。
「今の光は……ってお二人とも、何やっているんですか」
「尋問?」
「拷問?」
「んー!んんんー!」
スーさんの言葉に三者三様な返事を返すと、スーさんはため息をついて。
「私が交代致しますので、お二人は上で食事でもとっていてください」
「えーでも私も後学のために立会いたい」
「物理的に逃げようとしたらスーさんだと厳しくないです?ヒヒノさんも過剰火力ですし」
「別にいいですが、とりあえずその固定器具は外してくださいね」
スーさんに言われるまま拘束器具を外してイネちゃんはヒヒノさんの位置まで下がると、スーさんが服のボタンを外しながら男の前に立った。
「さぁ……いい子だからお話してくれないかしら?それとも駄犬に人語は難しいのかしら」
……スーさんの周辺にモヤっぽい何かが出現したと同時になんか始まった。
夢魔の人は相手の思考を読み、嗜好を実現する人たちなので……その、なんだ……あの男の人の理想の相手っていうのがまぁうん、そういうことなんだろう。
「それにしても暑いわね……こうも暑いとシャツが肌にくっついちゃう。早く話してもらえないのなら体に直接聞いてあげようかしら?」
「は、はい!お願いします!」
スーさんに交代した直後、瞬間的に男の態度が豹変した。
「ねぇイネちゃん」
「なんですかヒヒノさん」
「あれじゃあ……私たちじゃ無理なはずだよね」
ヒヒノさんの言うアレというのは、今現在モヤではっきりとは見えないスーさんのボディラインのことである。
なんというか……リリアよりも大きいものが胸部に輪郭で見える辺り、完全にストーンなイネちゃんとちょっぴりだけ膨らんでいるヒヒノさんではどうあがいても無理な領域だということだけははっきりと認識できたのだ。
「そもそもあんな篭絡、したいですか?」
「いや全然。やっぱ痛みよりも三大欲求ってことなのかな」
「単純に滅びた世界の人たちが色事から遠ざかって久しかったってだけじゃないですかね。そんな余裕なんてなかったでしょうし」
「男って単純だね」
どんな拷問手段よりも有効だったのは、ハニートラップだったとさ。
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